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【詩】誰かに想いを伝えたい【詩】

1 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/03(木) 00:29:40 ID:2FYZiG7C
そんな詩を書いてくださいませ。
誰に向けてでも構いません。
どんな些細な事でも詩で綴っていただければそれでいいです。

2 :名前はいらない:2008/07/03(木) 01:44:50 ID:DEIKzhaj
おぞましや 心根いやしき 長谷川櫂
  生きる価値とて 無きものと知れ

自称「俳句詠み」の長谷川について知らない人は「長谷川隆喜」で検索してみるといい。


3 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/03(木) 10:42:10 ID:2FYZiG7C
>>2
知らないので検索してみました。
あまり良いことは書いてないですね。
どこに書いてあることも似たような文面ですね。
内容はあんまり関心できることでないですね。
もし、書いてある事が事実だとしても。
人それぞれの感じ方があるので仕方ないとは思います。

4 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/05(土) 03:23:01 ID:bmYsdgQo
遠くを見つめる瞳がとても悲しそう
君の瞳には何が映ってるのかな?
きっと僕たちの未来かな?
そんな未来でも俺はいいよ
今はこうやって傍にいてやりたいから
そうしてる事が今は一番いいから
未来の事なんてどうでもいいよ
君と居る今を一番大事にしたいよ
俺のエゴだね。

5 :名前はいらない:2008/07/05(土) 20:18:11 ID:MIHJb5pg
1.


ワタシは自由ダカラ
緑窗のヤラズノアメをノゾキコンデ
真珠の海ニウキアガツテクル
幾つもノ
鈍銀の晄晄とシタ飛行機
茫茫とケブれルオモヒカネノミタラシのミコトノ
ヒマシ油ノカミ
ニ燃移ツテ
掻毟ル形ノソノママニカタマル
わたしをみてゐた


6 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/05(土) 20:29:12 ID:bmYsdgQo
>>5

うぬ・・・漢字が難しいw
でもこいう詩を書けたらいいなぁって思います。
自分はこいう詩をかけないから。

7 :名前はいらない:2008/07/06(日) 01:02:02 ID:wFQZPTpJ
うあわ
御返事ありがとうござります
>>5 です。
ひと月間
ゆるりと蜩に化ったり化らなかったりさせて頂きます。
どうかよしなに。


みんななーかーよーくー

8 :名前はいらない:2008/07/06(日) 01:36:54 ID:9cmvSyV6
どうしていますか
新しい生活はしあわせなのかな
ホームページで笑顔を見ました
うまくいっているようでうれしかった
今まで人をしあわせにした分
今度は自分がしあわせになってくださいね
誠実すぎて正直すぎるあなた
経営が向くのかなって少し心配でした
お客さん
たくさん来るといいですよね
丸く丸く大きな太陽になって
あなたが選んだ
あなたのふるさとで
ピカピカに
輝きますように

9 :さんちゃん ◆tAP/8rKbqo :2008/07/06(日) 05:15:41 ID:wPHM9mIZ
蜃気楼 新スレおめ♪♪♪
今度来る時は 詩を投下していくわね。今日は 挨拶までw

10 :真っ黒:2008/07/06(日) 11:40:35 ID:VJz1WRVC
まもれなかった
つたないおもい
ざんげをするも
きみはかえらず

しをまぬがれた
げれつなぼくの
るりいろのきみ

はなさきみだれ
くにはさかえど
ろうじんのみる
いろはにおわず

11 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/06(日) 20:35:40 ID:UTuPSJVQ
>>7
いえいえ^^
お返事しかできませんけどw

仲良くやりませうw

>>8
幸せって難しいですよね。
どうなったら幸せなんでしょうかね?
この詩を詠んでてそう思ってしまいました。

>>9 さんちゃん
新スレって言えば新すれだけどw
まぁ d(゚Д゚)☆スペシャルサンクス☆( ゚Д゚)b

>>10 真っ黒さん
なんだか悲しい詩ですね。
命の尊さを実感できる詩ですね。


12 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/07(月) 04:41:37 ID:hC/o71Uq
どこか遠く知らないところへ行ってしまいたい

誰も知らないどこへ行ってしまいたい

それがどんなに辛くても

それがどんなに苦しくても

今はそうしたい

そうすることがきっと救われる筈だから。。。

13 :名前はいらない:2008/07/07(月) 04:52:41 ID:+lAW9QxY
>>10これは縦読みじゃないですか?

14 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/07(月) 21:50:05 ID:hC/o71Uq
>>13
(|| ゚Д゚)ガーン!!本当だww
縦読みというかあいうえお作文みたいですねw
それとも単なる偶然でしょうか?

15 :スレ主様お邪魔します:2008/07/08(火) 05:07:53 ID:Irq01X4j
をや
誰かの葬列が粛々と。
屹度わたくしの葬儀であらう。

完璧な被害者とは恐ろしゐものだ。
加害者も爾。
うふふ。

16 :名前はいらない:2008/07/08(火) 05:14:14 ID:Irq01X4j
2.


海石榴
掘出る形代の
五十余六種犂に掛かりて
襤褸
大多河
目滌
百八十
多具理
宇士多加礼許呂呂岐弖




17 :名前はいらない:2008/07/08(火) 21:19:35 ID:C7q+BRHy
気がつけば夢の中へ
あなたをギュッと抱きしめた
そうしたら僕は消えていった
あなたの顔も見ないまま
カラスの鳴く声がして
目をゆっくり開いて
夕焼けこやけの太陽が
僕の窓から差し込んでる
さよならもなしにいなくなったから
あなたはきっと悲しんでる
はやくもう一度戻らなくちゃ
あなたの夢の中へ
目を閉じても眠れなくて
あきらめて僕は窓を見る
きらきら星の夜空が
僕の窓にきらめいてる
あなたに会えなくなっても
あなたをギュッと抱けなくても
あなたの顔を見なくても
あなたとどこかで繋がってる

18 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/08(火) 23:45:37 ID:ghmYGvDn
>>15

>完璧な被害者
ってのが何だか意味深な感じですね。

>>16

ぬお!これは漢字が大量に・・・・w

>>17

個人的にはとっても好きな詩です。
作者の思いが伝わってくるとてもいい詩だと思いますよ。


19 :鯖腐とろ目吉三(仮殯):2008/07/13(日) 03:16:17 ID:+hmjXIzh
あら。
五日も過ぎてしまった。
皆様随分と足が早うていらっしゃる。
のっほっひっへ

20 :名前はいらない:2008/07/13(日) 03:21:57 ID:+hmjXIzh
3.



言語飛行機設計学国文学者の独白

「ヤマトから仮名混じりの言葉知りが掠められて
からのかりがねからかりを求める
ミカドヲウム伊勢のカドミウムの海瑠璃
がイハクスフネを
形容ると
復讐句集に挿まる櫛の簇の孔の
男根百合科被子植物は
アシタノウミ泡立つ
ワタツミノワカジニノミコトノ
片道燃料切符!
ヤーマトー、ヤーマトーはすぐそこだぞーー
オーイ、オーイ、
此方の姿が見えるかーーー」

21 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/16(水) 20:08:00 ID:dbrDqHIQ
>>19

このスレのことなのかな?w

>>20
16の方でしょうかね?
何だか戦時中を思い出すような詩ですね。
実際戦後生まれなので戦時中の事は体験したことは無いですけどw
一応誤解がないように(;・∀・)



22 :名前はいらない:2008/07/17(木) 00:14:32 ID:1g8X5mzO
言わせて貰うと、蜃気楼さんって、以前より、まるで、詩的に進歩していないよね。
おれに言わせれば、あんたは「チャラ夫」みたいなもんで、ニセの「詩」を弄しているにすぎない。
仲間を集めようとしたり、誰かがテキトーに書いただけの「詩」とかなんとか呼ばれてるものを
あなたの尺度で評価したりすんのはヤメにして、孤独と向き合うべきなんじゃないの。

23 :名前はいらない:2008/07/18(金) 01:27:09 ID:/cJVnUcW
>>22
仰るとおりです。
誰も書かなければよ


アッーーー

24 :名前はいらない:2008/07/18(金) 01:31:24 ID:/cJVnUcW
4.



言語飛行機設計学国文学者の調書


言葉貝から蜃気楼のゾエムが環口類のt,e音を録音する
民族の条件t,uの擦過鉱石の1500℃焼成
青銅時代に差掛る人工(1)の職業集団化=家族t,a
国家の超越的同一性つまるところ律法の
一元バビロンの空中楼閣から螺旋t,n染色体変性を
導出のt,y神統の為の労働収容所の敷設は
滑走路からの有人飛行機


(1)‘斧’は可変的にt,u.t,nの祭祀権限‘melt’に左右される

25 :刹那の蜃気楼 ◆Love/N/baM :2008/07/19(土) 00:52:07 ID:Z/3XYw9z
>>22-23
異論はございません。
そう思っていただくならそう思っていただいて結構です。
それと、二つほど誤解なさってるので、二言。

評価なんて大それたこと一切してないつもりです。
自分が読んで、そいう気持ちになったって事をレスしたにすぎません。
俺の尺度で善し悪しをつけたつもりはないです。

もうひとつは、別に仲間を探しにきたわけでもございません。
仲間がほしいから戻ってきたわけではないです。

>>24
科学の授業を思い出しましたw


26 :名前はいらない:2008/07/19(土) 01:21:12 ID:DhMuPHJL
あなたに初めてあった
十月はもうすぐ
ここにあなたは
もういない
なんだか雨がふりそうです
海の近くにいるあなた
そちらは晴れていますか
夏椿はもう咲きましたか
そちらが晴れでありますように


27 :名前はいらない:2008/07/19(土) 04:48:41 ID:mX7fKZ3c
スプラッシュマウンテン

28 :名前はいらない:2008/07/21(月) 04:10:00 ID:fg1bEPjz
5.



19381109


実験施設の小頭の成熟の青年の体孔の反復運動の振子の
ベルトコンベアの断頭台の工程の設計圖の個室の立体の
表象の幻視の双頭の燈臺の鷲像の沸点の
あぶくの緑硝子の礫の雨の火亊の
将校の拳銃の散發の銃声の
屋根裏のノックの動悸の
悲鳴の家具の倒れる音の
銃声の
集團移送の
無人の


29 :名前はいらない:2008/07/23(水) 05:45:26 ID:dKJIvyTn
6.



アウシュビッツは存在しなかった
コルイマは存在しなかった
南京はフィクションであった
ホアローは自然建築物である
完全統制区域に金網はなかった
竜舌蘭は自然に酒になった
アブグレイヴは存在しなかった
家畜列車は走らなかった

列車は
.



30 :名前はいらない:2008/07/24(木) 16:02:00 ID:9DadLsAB
7.



実験心理学


火を入れる燃料口に薪を投ず火を燃料口に開く燃料口に
全裸
死体の
丸刈
火を入れる燃料口に投ず薪を開く燃料口に投ず燃料口に
薔薇斑
の蹠
火を入れる燃料口に入れる薪を投ず開く燃料口に薪を
母親、に

る幼児
火を燃料口に投ず薪に入れる燃料口に開く火
腸出血
の盥に
盈たし

火を投ず燃料口に薪を入れる開く燃料口に火を投ず薪を
腹水
を澑
めた

火を薪に投ず燃料口に開く燃料口に投ず薪に火を
囚人


燃料口に火を開く薪を投ず火を開く燃料口に


76号15:47入室


「これは見えますか?」
「蝶」
「これは見えますか?」
「砂時計」
「これは見えますか?」
「海豹」
「これは見えますか?」
「樹」
「あなたは誰ですか?」
「人間」
「あなたは誰ですか?」
「人間」
「あなたは誰ですか?」
「  



         。」

31 :名前はいらない:2008/07/30(水) 02:35:58 ID:45Rbsgju
8.



飛行士


浄瑠璃の門                  一面の火の海
玳瑁の数珠                  一面の火の海
銀の薔薇金の芙蓉              一面の火の海
白亞の圓梁                  一面の火の海
草の海                     一面の火の海
砂漠の城壁                  一面の火の海
天文基                     一面の火の海
霞の向うから赱赱と浮かび埋没する   一面の火の海
永ゐ時を                    膚のなゐ肉体
飛行機の辿り                 一面の火の海
それでもゆかねばならなかったのだ   一面の火の海
わたくしは                   一面の火の海

32 :名前はいらない:2008/08/02(土) 08:19:48 ID:qirEpKrX
9.



花弁の燒けた朝  わたしの消えた朝
バスの車輪を残して熔けた朝        の消えた朝  
電柱に手がはりつゐた朝    おれたちの消えた朝 
瓦の泡立つた朝            の 消えた朝 
硝子のふりそそゐだ朝       ぼくの消えた朝
欄干に爛れてゐた朝          の消   えた朝  
田圃に横たわつてゐた朝      の 消えた朝  
馬の腹が破れた朝          の 消えた朝
ややこの産まれた朝        の消    た朝
壕に積累なつたまま        消   た 朝 
花弁の燒けた朝           消

33 :名前はいらない:2008/08/02(土) 08:32:18 ID:qirEpKrX
sage忘れた。
さげ


34 :名前はいらない:2008/08/04(月) 19:12:51 ID:SQQnPdUg
10.



おほぞらが燒落ちた朝、

校庭に染付いたおまへは何処にいつた
停車場に累なつたおれは何処にいつた
繃帯から零れたものは何処にいつた
河を埋めていたきみは何処にいつた
窖で崩れほろろいだわたしは何処にいった
うまれて直ぐ死んだおまへは何処にいつた
おれたちは何処にいつた

35 :名前はいらない:2008/08/06(水) 04:53:13 ID:q2WCfWKt
11.




男1


「世界の涯の陽炎で
膚の剥落ちた頭をかかえ
かかあを探すおまえを見た
世界の涯の陽炎で
おぶさつてた手足を縮め
小さく小さくなつて
燃残るおまえを見た
世界の涯の陽炎で
灼付いたもんぺの刺繍から
涕のような海
舐めたい
舐めたいといつて
死んでつた
おまえのぼろぼろの背骨をみた
ヤマトの最后の夕照雨に
おれは
おまえを見たぞ
蜉蝣よ!」

36 :ローカルルール変更議論中@自治スレ:2008/08/09(土) 19:24:47 ID:tEZZBXyn
12.



海のあなたに飛行機の はしから落ちた
草薔薇の こころにだれをのせましょう
泡のあなたに熔けて焼付いた
影もわすれてしまうでしょうけれど
あなたの今日に落とされた
あきつの卵瑠璃のみづ
空のひとみ
零れた種のあかるさを
わすれないで


37 :名前はいらない:2008/11/05(水) 01:48:04 ID:Mi9H8Pl5
忘れないお(^ω^ )

38 :名前なし:2009/08/27(木) 18:03:37 ID:Z95MVMiW
物はなぜごちゃまぜになるのか



娘  パパ、物はどうしてごちゃまぜになってしまうの?
父  何だ、「もの」とは。「ごちゃまぜ」とは。
娘  みんないつも物を片付けてるでしょう? わざとごちゃごちゃにしようなんて人、いないじゃない。
   ものがひとりでにごちゃまぜになってしまうのよ。だからまた片付けなきゃいけなく---
父  「ひとりでに」? いじらなくてもか?
娘  いじらなければ、そのままだけど、でも誰かいじるとするでしょ。そうすると、ごちゃまぜになってしまうじゃない! 
   特に他の人がいじった時。自分がいじった時もだけど、他の人がいじると、もっと酷くなってしまうわ。
父  そう。だからパパはお前に机の上をいじるなと言う。人にいじられると、自分がいじったときより、もっとごちゃまぜになってしまうからだ。
娘  でも他の人の物を動かすと、必ずごちゃまぜになってしまうのかしら……。ねえ、それ、なぜなの、パパ。
父  待て待て。そう簡単じゃないんだ。第一に、ごちゃまぜになるって、実際どうなることなんだろう。
娘  ……何がどこにあるのか分からなくなって、それで、ぱっと見て綺麗じゃないの。順序良く並んでないと、綺麗じゃないでしょう?
父  お前の思うごちゃまぜと、他の人の思うごちゃまぜは、同じかな?
娘  同じでしょう? 違うの? だって、あたしが散らかしたのを見ると、あたしだけじゃなくて、みんなごちゃまぜだって思うわ。
父  そうか。じゃ、「片付いている」方はどうだろう。他の人が「片付いた」と思うのと、お前が「片付いた」と思うのと、同じだろうか。
   ママがお前の物を片付けたとき、何がどこにあるか、すぐ分かるかな?
娘  ……ママなら分かるかもね。ママの片付け方なら、あたし知ってるから。
父  パパは、ママにも机を片付けさせたりしないぞ。パパの思う「片付いている」とママの思う「片付いている」は違うから。
娘  あたしとパパでは? やっぱり違う?
父  違うね、きっと。

39 :名前なし:2009/08/27(木) 18:04:41 ID:Z95MVMiW
娘  でも、パパ、変よ。ごちゃごちゃなのは、みんな同じでしょう? なのに片付いている方は、一人一人違うの? 
   「片付いている」って「ごちゃごちゃ」の反対なのに。おかしいわ。
父  ちょっと難しくなってきたな。最初から考えてみよう。「なぜ物はごちゃまぜになってしまうのか」というのが、お前の最初の質問だった。
   それを考えているうちに、別な風に考えなくてはいけなくなってきた。質問が動いてきたんだ。
   今はこういう質問になっている---「なぜ物は、お前が"片付いていない"と思う風になってしまうのか」どうして言い換えたのか、分かるかな?
娘  ……うん、分かる。だって---もしあたしの「片付いている」が、他の人の「片付いている」と意味が違ったら、
   他の人の「片付いている」の中には、あたしが見てごちゃまぜなのもある。でもごちゃまぜの方は、誰が見てもみんなごちゃまぜ。
父  よし、正解だ。じゃあ、お前が「片付いている」というのはどういうのか教えてごらん。絵の具箱はどこに置く?
娘  棚のこっちの端っこ。
父  それがここだと……
娘  それじゃ片付いてない。
父  こっちの端っこでもだめか?
娘  だめ、そこじゃないんだから。それにまっすぐ置かなくちゃいけないの。パパの曲がってるわ。
父  おっと、正しい場所に置くだけじゃいけない。まっすぐでないといけない。
娘  そう。
父  それじゃ、片付いている時の場所って、ずいぶん少ししかないことになるな。
娘  一つだけよ。
父  いや、一つだけじゃない。ちょっとこっちへずらしただけだと、ほら、これ、まだ片付いているだろ? だから「数少ない場所」と言わなくちゃいかん。
娘  いいわ。でも、とってもとっても少ない場所よ。
父  いいだろう。とってもとっても少ない場所だ。で、くまさんはどこに片付ける? お人形は? 
   「オズの魔法使い」とセーターと靴は? どれも同じだね? それぞれの物について、「片付く場所」っていうのは、とってもとっても少ない---
娘  うん、だけどパパ、『オズの魔法使い』は、その棚の上ならどこでもいいの、それとね……知ってる? あたしの本とパパやママの本がごっちゃになるの、あたし大嫌いなの。
父  ああ、知ってるさ。

40 :名前なし:2009/08/27(木) 18:06:37 ID:Z95MVMiW
娘  パパ? まだ終わってないわ。なぜ物は、あたしが片付いていないって思う風になってしまうのかしら?
父  しかし、もう終わったんだ。お前がごちゃまぜだと思う並び方の方が、片付いていると思う並び方より数が多いから。それが答えさ。
娘  でも……それじゃ、理由になってないわ。
父  なっているとも。理由になるどころか、この世にある、本当の、ただ一つの大理由なんだ、これは。
娘  パパったら、もう! すぐそんな風に言うんだから!
父  いや、でたらめを言ってるんじゃないよ、パパは。それが理由なんだ。科学というものはだね、いつも必ずその理由に引っかかってる。
   例えば、このコップに砂を入れて、その上から砂糖を入れるとするよ。それをスプーンでかき回す。すると、ごちゃまぜになるだろう?
娘  でも、それ、ごちゃまぜって言うの? 綺麗に混ざるって言うんじゃないの?
父  ふむ……じゃ、こう言おう。もしだよ---もし、砂が全部下に来て、
   砂糖が全部上に来るのを「片付いている」と思う人がいたとするね。パパがそう思ったっていい。
娘  うん……
父  もう一つ別な例だ。映画が始まる時に、スクリーンにいろんなアルファベットがごちゃごちゃになって出てくるの、見たことあるね? 
   あっちを向いたりこっちを向いたり、さかさまになってるのもあるんだが、誰かがテーブルをゆすると字が動き出して、
   しまいに全部の字がすーっと収まると、映画のタイトルになっている。
娘  知ってる、それ。ドナルドの映画! 「DONALD」っていう綴りになるの。
父  どんな綴りになるかは問題じゃない。要するに、揺すったりかき回したりしたときに、
   だんだんごちゃまぜになっていくんじゃなくて、きちんとした順番に並んでいく。
   向きもちゃんと揃って。そして言葉の綴りになる。それを見ている人が、読むことが出来て、意味がとれる。そういう並びになっていく……
娘  あ、それ、本当は……
父  ---待ちなさい。パパが言ってるのは、あれは絶対、普通の世界では起こらないということなんだ。映画でなければ……
娘  それ、パパ---
父  そうさ、映画でなければ、ああはいかない。物をかき混ぜていくと、次第に秩序と意味が出来ていくなんて。
娘  パパ!

41 :名前なし:2009/08/27(木) 18:09:05 ID:Z95MVMiW
父  黙りなさい。まだ終わってないんだから。いいね、映画を撮っている最中は、あれは逆向きに進んでいるんだ。
   最初テーブルの上にちゃんと「DONALD」って並べておいて、カメラを回し始めたらテーブルを揺する。
娘  もう! パパったら、あたしが言いたかったことを全部言ってしまうんだもの。それで映画館では逆回しでかけるのよね? 
   本当は後ろ向きで起こっていることなのに、まるでそのまま起こっているみたいにして。
   でも本当は、だんだんまぜこぜになっていったのよね。それと、上下も反対に撮らないといけないのよね。
   でも、それはどうしてかしら。ねえ、パパ、どうしてなの?
父  おいおい、またか。
娘  どうしてカメラをさかさまに取り付けなくちゃいけないの?
父  だめだ、答えてやらん。まだごちゃまぜの話が途中じゃないか。
娘  いいわ、じゃあ。でも忘れないでよ、パパ。今度の時にカメラのこと、きっと教えてね。
   あたし忘れちゃうかもしれないから。パパ、覚えていてね。きっとよ。
父  分かった。しかし今度だぞ。えーと、そうだ、なぜ物事は逆向きに起こらないかだ。
   パパが言おうとしていたのは、起こり方がたくさんあることは実際起こる。
   起こり方がたくさんあるということを示せば、そのことが起こる理由を言ったことになる。それはどうしてか、ということだ。
娘  やっぱり変よ、その理由。
父  変なものかね。いいか、もう一度最初から考えてみるよ。「DONALD」の綴り方は、一つしかない。これはいいね?
娘  いいわ。
父  よし。それじゃあ、その六つの字をごちゃごちゃにさせるやり方はどうだ。何万通りもあるだろう? これもいいね?
娘  ……さかさまになったりしててもいいのね?
父  そうだ。映画に出てきた、完全にぐちゃぐちゃのごちゃまぜだ。ああいうのは何万通りも何億通りもある。
   そして、そのうちのたった一つだけが「DONALD」だということだ。分かったかな?
娘  それはいいけど、同じ六つの字で「OLD DAN」にもなるわよ。
父  そんなことはどうでもいい。映画を作った人は「OLD DAN」なんてのにはしたくなかった。「DONALD」という風にしたかったんだ。
娘  どうして?

42 :名前なし:2009/08/27(木) 18:10:25 ID:Z95MVMiW
父  どうしてって、そんなことをパパに聞くなよ。映画を作った人に聞けよ。
娘  でも、パパよ。映画を作った人のことなんか言い出したの。
父  それはだね、それは、お前に、どうして物事は起こり方の多いことが起こるのか説明をだね、---もういい、寝なさい。
娘  まだ終わってないわ。どうして物事は、パパの言うように、起こり方の多い方に起こるの?
父  分かった。ちゃんと言うから、もう余計なことは言い出さんでくれよ。
   ドナルドはやめて、別の例でいこう。コインを投げて裏が出るか表が出るかで勝ちを決めたりするね?
娘  パパ? また初めの質問の続き? 「なぜ物はごちゃまぜになってしまうのか」っていう話をしているの?
父  そうさ。
娘  じゃあ、今パパは、コインのことも、ドナルドのことも、砂とお砂糖のことも、
   あたしの絵の具箱のことも、それからコインのことも、みんな一緒に説明しようとしてるの?
父  そうだよ。
娘  そう……どうなのかなって思ったの。
父  よし、今度はちゃんと言うから、よく聞いてるんだぞ。砂と砂糖でいこう。
   砂が全部下に来るのを「片付いている」とか「きちんとしてる」とか「秩序だっている」とか思う人がいるとするね。
娘  そう思う人がいないといけないの? そうじゃないと、かき回したとき、どうしてごちゃまぜになっちゃうかを説明できないの?

43 :名前なし:2009/08/27(木) 18:35:51 ID:Z95MVMiW
父  そうなんだ。そこが大事な所なんだよ。人間は希望的観測というのをする。こんなことが起こらないかなとね。
   そこへパパが出かけてって言ってやる。残念ながら、そうはいきません。他に起こるかもしれないことが、こんなにたくさんあるじゃないですか、って。
   間違いないんだな。たくさんあるうちの一つが起こるほうが、少ししかないうちの一つが起こるより多いということは。
娘  パパって、あれみたい。競馬の、何てったっけ……
父  賭元か?
娘  そう、そのカケモトみたい。あたしが賭けた馬以外の馬を、全部応援するんでしょ。
父  その通り。みんなに、それぞれ「片付いている」って思う方へ賭けさせる。
   ごちゃまぜになっている方が、限りなくたくさんあると知っててね。で、物事はいつもごちゃまぜのまぜこぜへ向って行く。
娘  最初からそういう風に言ってくれればよかったのに。それならあたしにもよく分かるわ。
父  そうか。まあいい。もう寝なさい。
娘  パパ、大人の人はどうして戦争するの? 子供みたいに、ただ喧嘩するだけじゃなくて。
父  だめだ、ベッドへ行きなさい。戦争の話はこの次だ。

44 :名前なし:2009/08/27(木) 18:38:35 ID:Z95MVMiW
フランス人の手振り



娘  フランス人って、どうしてあんなに手を動かすのかしら?
父  何のことだね。
娘  人とお話してるときよ。とっても派手に手を動かして話してるでしょ? どうしてあんな風にするのかな。
父  じゃ、どうしてお前はニコニコしながら喋ったり、足を踏み鳴らしながら喋ったりするんだね。
娘  でも、それは同じじゃないわ。あたしは手を振って喋ったりしないもの、フランス人みたいに---フランス人は、ああやって喋るの、やめられないのよね、きっと。
父  どうだろう。まあ、やめるのは難しいかもしれんな。お前はニコニコするの、やめられるかね?
娘  でも、あたし、いつもニコニコしてるわけじゃないでしょ? 嬉しい時だったら自然とそうなっちゃうと思うけど、
    いつも嬉しいわけじゃないんだから、そうしたら、やめちゃうわよ、絶対。
父  そうだな。しかしフランス人だって、何時も同じ風に手を振っているわけじゃないぞ。
   こんな風にやる時もあるし、こんな風にやる時だってあるだろう。それに、パタッと手を止める時だって、あるんじゃないか?

45 :名前なし:2009/08/27(木) 18:39:44 ID:Z95MVMiW
父  どんな感じがするかね。フランス人が手を振って喋ってるのを見ると、お前はどう思うんだ?
娘  変! 馬鹿みたい! でも、相手のフランス人には、そうは見えないんでしょうね。
   だって、みんなが馬鹿みたいに見えちゃったら……もし、そうだったらやめるでしょ?
父  うーん、そうかな。難しいところだ。他には?
娘  うーんと、感情的、って言うの? 凄く嬉しがっているとか、怒っているとか……
父  よし。「馬鹿みたい」で「感情的」
娘  でも、本当に感情的になってるのかしら? あんなに手を振ってしまうほど……
   変よね、嬉しくて唄ったり踊ったりするのは分かるし、怒って相手の顔を引っ叩くのも分かるけど、
   フランス人って、ただ手をあっちこっちに動かしてるだけでしょう? きっと、本当に感情的なんじゃないのよね。
父  本当に馬鹿でも何でもないのさ。お前はどうなんだ。どうして歌ったり踊ったり、相手の顔を叩いたりしたくなるんだ?
娘  どうしてって、そうしたい気持ちになるからじゃない。
父  フランス人だって、そうかもしれんぞ。手を振りたい気になる。
娘  えーっ、嘘でしょう? いつでも手を振りたい気分だなんて、おかしいわよ、パパ。そんなの変だわ。
父  お前が手を振りたくなる時の気分に、フランス人がいつもなっているはずはない、というなら、それはそうさ。
娘  じゃあ、パパ、フランス人が手を振りたい時の気分って、どんな気分?
父  こう考えたらどうかな。お前がフランス人と話をしてるとする。相手の手はあっちこっち動いてるんだが、それが急にパタッと止まったとする。
   ただ口だけ動かして喋ってる。その時お前は、どんな気がするだろう。
   「この人、もう馬鹿みたいじゃない」とか「穏やかに気分になった」とか、思うかな?
娘  ううん……怖くなるわ、きっと。何か気に触ることを言ったんじゃないかって。怒っちゃったんじゃないかって……
父  そうだ。本当に怒っちゃったのかもしれん。

46 :名前なし:2009/08/27(木) 20:55:16 ID:Z95MVMiW
娘  分かったわ。起こると手を動かすのをやめるのね。
父  待て待て。最初の問題は何だった? 手を動かすことでフランス人が何を相手に伝えているか、ということだったね。
   そして、ほら、答えが少しずつ出てきたじゃないか。今の自分の気持ちが、手の振りで、かなり伝えられるのさ。
   「怒ってない」とか、お前の言った「馬鹿みたい」---その「馬鹿みたい」であって、全然構いませんとか。
娘  でも……おかしいわ。そんなの。怒った時に怒ったことが分かるように、
   それまでずーっと手を振ってるなんて。後で怒るかどうかだって分からないのよ。
父  それは分からない。でも、念のためって---
娘  そんなのないわよ。ニコニコしてないと後で怒った時困るからニコニコしてるんじゃないもの、あたしは。
父  そうかな。パパの考えは違うな。まさにそのことが、スマイルすることの理由の一つだと、パパは思う。
   心の中では怒ってるのに、わざとニコニコして、怒ってないように見せる人だってたくさんいるじゃないか。
娘  でも、それ、同じなの? パパの言ってるの……嘘を吐くことでしょ? 顔で嘘吐くことよね。ポーカーの時みたいに。
父  そうさ。

47 :名前なし:2009/08/27(木) 20:56:36 ID:Z95MVMiW
父  さてと。フランス人が、怒ってない、むくれてない、というのを伝えるだけのために、
   あんな一生懸命手を動かすのは理屈に合わないと、お前は言うんだね? 
   でも考えてごらん。人はぺちゃくちゃと随分喋るけど、大体何を喋ってるね。我々の会話って、大体どんな話だ?
娘  それは、いろいろでしょう? 野球のこととか、アイスクリームのこととか、庭のこと、ゲームのこと。
   それに、人の噂話もするわ。自分のことも話すし、クリスマスに何を貰ったとか……
父  それはいいんだが、一体誰が聞くんだね。昨日の野球の話とか、人の家の庭の話とか…… 
   つまりパパが言うのは、そういう話をしている時に、何を伝え合っているかっていうことなんだ。
   本当に情報が交換されたりしているのか、交換されているなら、どんな種類の情報か---
娘  パパが釣りから帰ってきて、あたしが「釣れた?」って聞いて、パパが「一匹も釣れなかった」って言うでしょう? 
   そうしたら、あたしには、ああ、一匹も釣れなかったのって、分かるじゃない。それ、情報でしょう?
父  ふむ。

48 :名前なし:2009/08/27(木) 20:57:59 ID:Z95MVMiW
父  いいかね。釣りのことになるとパパは本気になるって、お前は知ってるはずだ。
   その釣りの話をお前がした。そして、会話が途切れた。それまで普通に喋っていたパパが急に喋るのをやめた。
   そうだね? それで何が分かるかってことなんだ。釣りのことでからかわれてパパが機嫌を損ねた、そのことだろう? 
   フランス人が手をパタッと止めるのと、これは同じじゃないか。
娘  ごめんなさい。でもパパが---
父  「ごめんなさい」はちょっと待った。今は怒ったりむくれたりする時間だ。こんがらがってしまう。
   いいよ、パパは何を言われようと、明日また釣りに行くさ。釣れる見込みなんか、全然なくてもだ。
娘  だってパパが、「会話は全部、怒ってないことを伝えるだけだ」って言うから、だから、あたし---
父  いや、全部の会話がそうだというわけじゃない。話してる二人が、相手の言うことをよく聞こうという構えでいれば、
   いろいろ細かな情報を伝えることも出来るわけだよ。話すことが、ただ仲良くする以上のことになる。
   いや、情報を交換する以上のことだって出来るかもしれない。二人とも知らなかったことが分かるとかね。

父  とにかく、人が話をする時は、怒ってるとか怒ってないとか、そんなことしか言っていない場合がほとんどなんだな。
   お互い一生懸命フレンドリーだと言い合って、しかもそれが嘘だったりして。
   みんな、話すことがなくなるとどうなる? 気まずそうな顔をするよね。
娘  でも、パパ、その「気まずい」っていうのだって情報でしょ? 怒ってるのとは違うっていう……
父  もちろんさ。「猫はマットの上です」というのとは、違った種類の情報だけどね。

49 :名前なし:2009/08/27(木) 20:59:56 ID:Z95MVMiW
娘  面倒くさいのね。「怒ってない」って、口で言ってしまえばいいのに。それじゃいけないのかしら。
父  そうなんだよ。そこなんだ。身振りで伝える情報と、それを言葉で言いなおしたものとは同じではない。そこがポイントだ。
娘  ……?
父  つまり、「怒ってない」っていくら言葉で言っても、身振りや口調でそう言うのとは、決して同じにならないんだ。言葉だけじゃたりない。
娘  でも、パパ、言葉には必ず口調があるでしょう? 口調はなくせないでしょう? 
   なくそうと思って喋っても、聞いてる人には口調を抑えてるんだってわかってしまうもの---それだって、やっぱり、口調よね?
父  そう。パパはそのことを言ったんだ。もっと広く「身振り」も含めて。
   フランス人は、手の振りをストップすることで、言葉だけでは言えないことを伝えてる---ということさ。

父  しかし、言葉だけで言うって、どういうことだ? そんなこと、ありえるんだろうか?
娘  書いた言葉は?
父  駄目駄目、書いた言葉にもリズムもあれば、響もある。それは消せないよ。「ただの言葉」なんてものはないんだ。
   それが肝心な所さ。言葉はいつも、身振りと口調に包まれている。しかし、言葉を包んでいない身振りというのは---これは、どこにでもあるな。

娘  パパ? フランス語の時間に、手の振り方をおそわらないの、どうしてかしら……
父  さあ、どうして、パパも知りたいところだよ。言葉を習うのがなぜあんなに大変かも、きっとそこに関係があるんだろうね。

50 :名前なし:2009/08/27(木) 21:01:27 ID:Z95MVMiW
父  ともかく、ナンセンスだ。人が「言葉」で喋ってる---ただ単語を並べて喋って---なんて考えるのは全然ナンセンスだ。
   身振りと言葉、なんて分けるのが、大体ナンセンスだ。「ただの言葉」なんてものはないんだから。
   構文とか文法とか、そういうのも全部ナンセンス。「ただの言葉」というものがあるという前提の上に、初めて成り立つ概念だ---
娘  パパ?
父  全部最初から考え直すんでなければ駄目だ。言葉って物を、もっと大きく、
   身振りのシステムとして捉え直すところから始めるんでなければ全然意味がない。
   だって、動物は、身振りと口調しかないわけだ。「言葉」が出来たのは、ずっと後の話だよ。語学教師が出来たのは、そのまた後だ。
娘  パパ!
父  なんだね。
娘  言葉を使うのをやめて、またジェスチャーだけでお話しするようになったら、面白いでしょうね。
父  ふむ。どうだろう。もちろんそれでは、会話にはならんだろうな。吠えたり、唸ったり、泣いたり、笑ったり、手を振ったりしてるだけじゃ。
   しかし面白そうだね。毎日がバレーになるわけだ。バレリーナが歌いながら踊ってるバレーにね。

51 :名前なし:2009/08/27(木) 21:38:52 ID:Z95MVMiW
ゲームすること、真面目であること


娘  これ真面目な話なの? パパとあたしの会話。
父  もちろん。
娘  パパは問答ごっこをしてるんじゃないのね?
父  おいおい。しかし、ゲームといえばゲームだな。二人でプレイしているゲームだ。
娘  だったら、真面目じゃないんじゃない!

父  「真面目」って何なんだろう。「ゲーム」って何なんだろう。言ってみてごらん?
娘  その……もしパパが……うまく言えないわ。
父  もしパパが?
娘  あたしには真面目な話でも、もしパパが、ゲームだとおもってただプレイしているんだったら……
父  ストップ。"ゲーム"を"プレイ"することのいい所と悪い所を考えてみよう。第一にパパは勝ち負けにはこだわっていない。
   そりゃ、お前の質問で追い詰められれば、パパは一生懸命になるよ。何とか答えを言葉にしようとしてね。
   しかし、はったりをきかせようとか、お前を罠にかけようとかは思わない。ずるまではしたくないね。
娘  そう、そのことなのよ。本気じゃないからそうなんでしょう? 質問に答えるゲームをしてるだけなのよ、パパは。
   ずるする人って、ただプレイしてるだけじゃいられなくなるからずるをするんですもの。本気になって、ルールのことなんか構ってられなくなるの。
父  しかしゲームは本気でやるものだよ。真面目なものだ。

52 :名前なし:2009/08/27(木) 21:40:08 ID:Z95MVMiW
娘  違うわ。パパは本気じゃない。
父  ずるしたい気にさえならないからか?
娘  そうね。
父  お前はどうなんだ。パパを引っ掛けたいとか、ずるして勝ちたいとか、いつもそんな風に思って質問してくるのか?
娘  そんなわけないでしょう。
父  じゃあ、お前も本気じゃないことになるな。
娘  パパには分からないわよ!
父  うん、分からんらしい。

父  ところで、今のはパパの勝ちだな。お前から「ずるはしたくない」という答えを引き出して、
   お前も「真面目」じゃないことにしてしまった。どうだ、これもずるのうちかな?
娘  ずるのうちよ。
父  パパもそう思う。ごめん。
娘  ねえ、今思ったんだけど……パパとお話しながら、あたしがずるをするとするでしょう? 
   ずるをしたいと思うだけでもいいんだけど。そういう時ってあたし、本気で話していることにはならないみたい……何かそっちの方がゲームみたい。
父  そうだね。

娘  で、どっちなの? どういうのが真面目で、どういうのがゲームなのか混乱してきちゃった。考えていくと、意味がどっかに行っちゃうの。
父  お前のその混乱にも、ちゃんと意味があるのさ。
娘  本当? どんな?

53 :名前なし:2009/08/27(木) 21:41:36 ID:Z95MVMiW
父  まあ、待て。これをちゃんと言うのは、とても難しいことなんだ。先ず、二人の会話は、出鱈目に進んでるんじゃない。
   ちゃんとある所に向かっている。話してて楽しい方向にいっているということもあるけれど、
   それと同時に、話をしながら、頭の中で新しい考えがまとまっていくということも起こっている。
   その時、考えが一度ごちゃごちゃになるってことに、大事な意味があるんじゃないかとパパは思うんだ。
   だって、もし二人の話がいつもすいすい論理的にばかり進んでいたら、
   話が終わったときに、頭の中がはじめと何も変わっていないことになるだろう? 
   そういうんじゃ、新しい話は何も出来ない。何百年も前から誰かが喋っていたのと同じことを、
   オウムみたいに繰り返すしかなくなってしまう。言うこと全部がクリシェーだ。
娘  クリシェーって?
父  クリシェーというのは、フランス語なんだが、もともとは印刷屋の言葉でね。
   印刷屋ではアルファベットの活字を一つ一つ拾っていって、それを一本の棒のようにして文を作っていくわけだが、
   よく使う文や語句は、最初から別に作っておくと便利だろう? 
   そういうあらかじめ作ってある棒のことを、クリシェーというんだ。
娘  わかった。でも、どうしてそのクリシェーの話になったの?
父  二人で問答しながら、頭が混乱してくることに、どういう意味があるかということさ。
   混乱してこないように話を進めるというのは、カードを切らずにセヴン・ブリッジをやるのと、ちょっと似てるんだな。
娘  それがどうつながってくるの。あの、活字の棒と。
父  クリシェーか? 同じことさ。印刷屋は出来合いの活字の列をフレーズにして持ってるんだし、
   人間が物を考える時も、最初から出来上がっているフレーズや考えに頼るわけだから。
   しかし印刷屋が何か新しいことを……つまり、新しい言葉で書いたものとか、
   そういうものを印刷する時には、活字の列を一度全部ばらばらにしないといけないだろう? 
   新しいことを考えたり言ったりするのも、それと同じさ。最初から出来上がっている考えのまとまりを、一度ばらして混ぜ合わせないといけない。

54 :名前なし:2009/08/27(木) 21:43:10 ID:Z95MVMiW
娘  でも、活字は全部ごちゃ混ぜにしないでしょ? 全部同じ袋に放り込んだりしないわよね。
   Aはa、bはbって、一つずつ箱に入れておくでしょ? コンマはコンマでひとまとめにして。
父  そりゃそうだ。そうでないと、字を探すのに大騒ぎになってしまう。袋からいちいち拾うんじゃ、頭がおかしくなってしまうものな。

父  何を考えているんだ?
娘  質問だらけなの。
父  聞いてごらん。
娘  思考をばらばらにする所はいいのね。そうじゃないと新しい考えが出てこない、というのは分かるの。
   その時印刷屋さんは、一つ一つの活字をきちんと分けておくんだけど、あたしたちはどうなのかしら。
   考えの一番小さなまとまりは、やっぱり正しい順番に整理しておかないといけないのかしら。そうでないと、頭がおかしくなってしまう?
父  そういうことになるかな。しかし「正しい順番」とお前は言ったが、
   その順番が---秩序が---どんなものなのか、これはパパにも分からん質問だ。
   とてつもない難問だよ。その答えを今日見つけようというのは、とにかく無理だ。

父  質問だらけといったね。どんどん聞いてごらん。
娘  うん。何がゲームで何が真面目かっていう話から始まったんでしょう? 
   なのに、どうして思考をばらばらにする話になっちゃったのか教えてほしいわ。
   いつものパパの手なんでしょ、そうやって煙にまいてしまうの。それもずるの一種よ。
父  そうじゃない。それは違う。

55 :名前なし:2009/08/27(木) 21:44:32 ID:Z95MVMiW
父  二つ質問が出てきたが、本当はもっとたくさんあるはずだ。今日の話は、会話のことから始まったんだったな。
   パパとお前の話が真面目なのか、ゲームなのかって。自分は真面目なのに、
   パパがただのゲームだとしてプレイしてるんだったら嫌だな、と、お前は思ったわけだ。
   そこで、こんな風に言ってみたらどうだろう。真面目に会話をしている人の思いのあり方と、
   会話をゲームにしている人の思いのあり方は違っている。どうだ?
娘  そうなの。あたしが最初聞きたかったのは、パパの「思い方」だったの。だって、それがあたしの思い方と違っていたら、嫌だもの。
父  二人ともゲームの時のような思い方をしていたら問題はないわけだね?
娘  うん。
父  じゃあ、その「ゲーム的な思い」というのが、どういう思いなのか、パパが自分で思うところを言ってみよう、先ずパパは、今とっても真面目だよ。
   真面目に、お前と問題を考えている。考えるとはどういうことなんだろう、新しい考えはどうやって出てくるんだろう、とね。
   そして、それを考えながら、パパは思考のコマというかな、一つ一つのアイデアをいろいろ組み合わせながら"プレイ"している。
   "プレイ"だからって、真面目でないことはない。子供の積み木遊びだって、そうだろう? 
   積み木をやってる時の子供は、すごく真面目だよ、たいていの場合。
娘  ふうん、真面目でもプレイなのか……パパはどうなの? 真面目に話していても、やっぱりあたしとプレイしてるの?
父  ただし、お前と対戦しているわけじゃない。むしろパパがお前と一組になって積み木と対戦している、というかな。
   つまり「アイデア」とね。もちろん時々は、お前と競争になる。誰が次に積み木を積み上げられるかって。
   相手の積み上げ方が悪いといって、文句を言うこともあるだろう。文句を言われれば反論もするさ。
   しかしそうやって結局は、何か立派な建物が出来るように、二人で協力し合ってるわけだ。思考のコマが上手く組み上がるようにね。

56 :名前なし:2009/08/28(金) 00:36:27 ID:pyCQJkjv
娘  パパとあたしの会話にも、ルールがあるのかしら? ゲームとただの遊びの違いは、ゲームにはルールがあるということでしょう?
父  うん、難しい問題だ。そうだな、パパはあると思う。積み木遊びにもルールがあると思う。
   積み木自体にルールが組み込まれている。バランスの取れる積み方と、崩れる積み方が、最初から決まってるんだから。
   本当は崩れてしまうはずのものを、接着剤でくっつけて「出来た!」といったら、ルール違反だろ?
娘  あたしたちのは、どんなルールなのかしら。
父  同じさ。思考のコマ自体にルールが組み込まれているんだ。
   どのコマとどのコマが、お互いを支えあうか、どういう順番でのせていくと上手く思考が組み上がるか。
   それは最初から大体の所決まっているんだな。間違ったやり方でアイデアをのっけてしまうと、建物全体が崩れてしまうのさ。
娘  接着剤でくっつけるのは駄目ね。
父  駄目だ。あるのはロジックだけ。論理だけだ。

娘  でもパパ、言わなかった? ずっと論理的にばかり話していて混乱の中に入っていかなければ、
   新しいことは何も言うことができないんでしょう? 前から誰かが言ってたことしか……あれ、なんて言うんだったっけ?
父  クリシェーか? クリシェーは接着剤でくっついている。
娘  えっ? 論理しか使っちゃいけないって言わなかった?
父  さっきは、そう言ったな。接着剤は駄目だって。ほら、混乱がまた始まった。どうやって抜け出したらいいんだろうな、これは。うーん、分からん。

57 :名前なし:2009/08/28(金) 00:37:31 ID:pyCQJkjv
娘  どこからどう、分からなくなったんだっけ?
父  よし、じゃあ、話の順番をもう一度追ってみるか? この会話にもルールがあるかという話をしていたんだったな。
   そしてパパが、思考のゲームにはロジックというルールがあると言った。
娘  ねえ、パパ。ルールがもう少したくさんあって、それを全部きちんと守って考えていったら、混乱しなくてすむんじゃないかしら。
父  ん? ちょっと待った。それって、こういうことかな。
   つまり「まだルールとして出来ていないルールに、パパが違反しているから思考が混乱してくる」と。
   「ルールをもっと作って、それにちゃんと従えば、考えがすいすい進むだろう」と、そのことをお前は言ってるんだね?
娘  うん。だって、ルールって、物事をうまく進めるためにあるんでしょ?
父  しかし、この会話が、そういう種類のゲームになってしまっていいのかね。
   それで楽しいだろうか。そういうゲームをしたい時は、パパはトランプを選ぶよ。
娘  トランプはいつでもできるわ。今はこっちのゲームの方がいい。
   でもこれ、一体どんなゲームなのかしら。どんなルールがあるのかも、ちっとも分からない。
父  それでいながら、ちゃんとプレイできている。
娘  そうなの。おまけに楽しいの。
父  パパもさ。

58 :名前なし:2009/08/28(金) 00:38:48 ID:pyCQJkjv
父  お前がした質問で、今日答えを出すのは無理だと言ったのがあったな。
   ほら、印刷屋の話の所で、クリシェーの棒をばらす時も、全部まぜこぜにしたら駄目だって言ったね。
   やっぱりある秩序が必要になる、そうじゃないと頭がおかしくなるって。その時、お前はこんな疑問を出したわけだ。
   「思考が混乱していった時、頭が混乱しないためには、どんな秩序に頼っていないといけないか」
   この「秩序」こそがゲームのルールだということにならないだろうか。
娘  そのルールに違反すると、考えが崩れてしまうのね?
父  ある面ではそうだ。ただし、このゲームは、一度崩さないと駄目というゲームなんだな。
   一度考えを混乱させてって、その混乱から入ってきたのとは別の出口を通って抜け出るんだよ。
   そこにゲームのポイントがあるんだ。この混乱がないと、トランプやチェスのようなゲームになってしまう。
   そうなったんじゃ、これはゲームとしての何の面白みもなくなってしまうんだ。
娘  ルールは誰が作るの? パパなんでしょ。だったら不公平よ。
父  そういう発言はいかん。ファウル・プレイだ。それこそ不公平だよ。だが、いいだろう。
   そういうことにしよう。ルールを作るのはパパだ。二人とも頭がおかしくなってしまわないように、パパがルールを作る。
娘  ルールを変えるのは? それもパパがするの?
父  またファウル・プレイできたな。そうだよ。何時だって変えっぱなしだ。全部じゃない、一部のルールだけだがね。
娘  ルールを変える時は、ちゃんと言ってちょうだいね。
父  そういう具合にはいかないのさ。チェスやトランプみたいなゲームだったら、
   ルールについて説明したり、プレイを止めてルールを変える相談をすることも自由に出来る。
   ゲームから出るのも入るのも思いのままだ。しかし、トランプ・ゲームの外側にはどんなルールがあるんだろう。
   ルールを決める時のルールはどうなっているんだろう。

59 :名前なし:2009/08/28(金) 00:39:30 ID:pyCQJkjv
娘  ……?
父  いいか。肝心な所だぞ。パパとお前の問答の目的は、その「ルール」を発見する所にあるんだ。
   それが「生きる」ことなんだとパパは思う。生きることの目的は、「生きるゲーム」のルールを発見することにある。
   いつでも変わっていて、決してとらえることの出来ないルールをね。
娘  そういうのもゲームって言うの?
父  パパはそういうのもゲームって呼ぶんだ。少なくとも「プレイ」という言葉は使うね。
   ただし、チェスやトランプのようなゲームとは、全然違う。
   むしろ、犬や猫が生きている中でやっていることに近いんだろうな。本当のことは分からんよ。

娘  犬や猫もプレイするんでしょ? いろんな遊び。なぜなのかしら。
父  知らん。パパは知らんぞ……

60 :名前なし:2009/08/28(金) 00:43:36 ID:pyCQJkjv
知識の量を測ること



娘  パパって、どのくらい知ってるの?
父  どのくらい知ってるのかって? そう、1ポンドくらいかな。
娘  1ポンドって、お金の1ポンド? 重さの1ポンド? あたしは真面目に聞いてるの。パパの知識の量はどのくらいあるの?
父  脳みその重さが2ポンドとして、そのうち4分の1を使ってるとして---4分の1の効率で使っているというか。そう、半ポンドくらいだな。
娘  もう! ジョニーのパパより多く知ってるの? あたしより多く知ってるの?
父  パパの知っているイギリス人の子がね、お父さんに聞いたんだとさ。親と子では必ず親の方が多くのことを知っているのかって。
   お父さんが「そうだ」と答えると、その子は「蒸気機関を発明したのは誰?」と聞いた。
   お父さんが「ジェイムズ・ワット」と答えると、その子は言った---「変だな。どうしてジェイムズ・ワットのお父さんが発明しなかったのかな」って。

61 :名前なし:2009/08/28(金) 02:13:03 ID:pyCQJkjv
娘  あたし知ってるわ。その子より、あたしの方が知ってる量が多いわよ。
   ジェイムズ・ワットのお父さんが発明できなかった理由を、あたし知ってるもの。
   誰かが蒸気機関を作る前に、別の人が他の事を考え出しておかなくちゃならなかったから、でしょう? 
   その「他のこと」って何なのかは知らないけど…… でも、オイルが発見されていなかったら、誰もエンジンは作れないわ。
父  そうだね。それまでに何が知られているかということで違ってくるわけだ。
   つまり、知識の量というのは互いに織り合わさっている。布みたいに。
   一つの知識は、他の知識に練りこまれていて、初めて意味を持つんだ。
娘  じゃ、ヤードで測ればいいと思う?
父  そうはいかん。
娘  布はヤードで測るでしょ?
父  知識は布じゃない。布みたいなものさ。布のように平らじゃないし。三次元……いや、四次元かな。
娘  えっ、四次元? 知識って四次元なの?
父  いや、どう考えたらいいのかと思ってさ。

父  今日の会話は、あまり上手くいってないな。低調だ。別な入り方をしてみよう。
   問題は、一つ一つの知識がどんな具合に織り合わさっているかということだね。お互いにどう支え合っているのか。
娘  教えて。
父  一つのことと、もう一つのことを合わせた時に、二つのことにしかならない時もあるが、
   それが足し算のようにではなく、掛け算みたいに組み合わさって、四つのことになることもある。
娘  1と1をかけると4? パパの掛け算、おかしいわよ。
父  そうかな。

62 :名前なし:2009/08/28(金) 02:14:50 ID:pyCQJkjv
父  いや、4でいいんだ。掛け合わせるものが、「もの」じゃなくて、一個の知識である時は、
   1掛ける1が4になる。というのは、一つが二重の何かになっているからだ。
娘  二重の何か……?
父  少なくとも二重の、何かだ。
娘  パパったら……
父  それじゃ全然分からんか。そう……「二十の扉」を考えてごらん。
   お前が心の中で思うものを、パパが質問しながら当てていくわけだね。
   「明日」というのが答えだとするよ。パパは最初に「それは抽象的なものですか?」と聞く。
   お前は「イエス」と答えるね。その答えで、パパには二重の情報が手に入る。
   抽象的なものだということと、具象的なものではないということの二つがいっぺんに分かるわけだよ。
   こう言ってもいい---お前の「イエス」で、答えになるかもしれないものの数が半分に絞られる。それは、2分の1を掛ける掛け算だろう?
娘  割り算じゃなくて?
父  割り算といえば割り算だが、2分の1を掛けると言っても同じだよ。肝心なのは、それが足し算や引き算じゃないということだ。
娘  そうじゃないって、どうして分かるの?
父  どうしてかって? いいか、二つ目の質問をするとどうなるだろう。
   今度は「抽象的なもの」のまとまりから、候補が半分に絞られることになる。
   次にまた質問すれば、答えを含んでいるまとまりの大きさは、初めの8分の1になる。2掛ける2掛ける2で、8。
娘  2たす2たす2だと、6か。
父  その通り。
娘  でもそのことと「二十の扉」というゲームと、どう結びついてくるの?
父  つまりだね、もし質問が完璧に進んでいったとすると、20の質問をすることで、
   2を20回掛け合わせた数のものの中から一つの答えを選び取ることが出来るんだ。
   2を20回掛け合わせれば、これは百万以上だよ。そんなに多くのものの中から答えを当てることが出来るんだ。
   1つの質問で、2つのうちから答えが選べる。2つの質問で、4つのうちから答えが選べる。知識の世界は掛け算で進んでいくのさ。
娘  あたし、算数嫌いなの。

63 :名前なし:2009/08/28(金) 02:16:22 ID:pyCQJkjv
父  そりゃ計算問題を解くだけならつまらんだろう。でも、算数の中には、面白いものだってあるんだぞ。
   知識の量を測るのだって、算数の問題さ。量を測る、ということをやりだすと、必ず算数が始まることになる。
娘  まだ全然測ってないわ、知識の量。
父  それは知ってる。しかし、知識を測る測り方が、どんな種類の測り方かということは、少しだけ分かってきただろう? 
   それは、知識とは何か、ということの知識が少々ついてきたというのと同じだ。
娘  それ、おもしろい。知識についての知識っていうの。そのへんてこな知識も、同じようにして測れるのかしら。
父  待ちなさい。今のは、お前、最高難度の問題だよ。今日の「64ドルの問題」だ。
   「二十の扉」のことで、大事なポイントが残っていた。質問は、正しい順番でしていかないといけないんだな。
   必ず大きな質問が先に来て、細かな質問は後に来る。大きな質問の答えを知って、それではじめて、次に何を聞いたらいいか分かるわけだよ。
   だったら、どうだろう、初めの質問と後の質問を同じ一つの質問として数えるのはおかしいとパパは思うんだ。
   知識についての知識と、ただの知識を同じに測ったら変なことになる。
   初めの方で聞く質問は、後でどんな質問をしたらいいか知るための質問なんだから、
   それは、一種の「知識についての知識」だろう。つまり「二十の扉」というのは、知り方の知り方を知るゲームなのさ。
娘  今まで誰か知識を測った人っているの?
父  毎日どこかでやってるよ。学校でやってるテストがそうだろう。
   でもああいう測定で出てきた数字が何を意味するのか、パパには分からんね。
   あれは要するに、石を投げて紙の大きさを知ろうとするやり方だ。
娘  ……?
父  つまり、二枚の紙を、同じ距離のところで吊るしておいて、同じ数だけ石を投げるとする。
   そうすると、石が多く当たった紙の方が多分大きいという想像がつくわけだ。
   学校のテストも、それと同じさ。生徒に向かって質問を投げる。
   その質問が生徒の知識に当たる数が多ければ、その生徒はたくさん知っているということになる。
娘  でも、その測り方で、本当に紙の大きさが分かるのかしら……

64 :名前なし:2009/08/28(金) 02:18:23 ID:pyCQJkjv
父  ところが、分かるんだよ。実はこれ、かなり信頼できる測り方なんだ。
   普段気がついてないけれども、こういう測り方をしてることって結構多いんだ。
   例えばコーヒーの濃さを知るには、色を見るね? 黒ければ黒いほど濃いって。
   それは、光をどれだけ遮られるかで濃さを見てることになる。
   石の代わりに光の波を投げるわけで、考え方としては同じなのさ。
娘  ふーん。

娘  だったら、その測り方で知識を測ってもいいんじゃない?
父  テストでか? そはいかん。とんでもない話だ。さっき、知識の中にはいろいろ違った種類があるって言ったろう? 
   知識についての知識もあるんだって。そういう肝心かなめのポイントを、ペーパー・テストは全く無視して点数を出してるじゃないか。
   大きい問題というか広い問題が出来た生徒と、小さい細かな問題が出来た生徒と、同じように点をつけていいのかな。
   種類の違う問題には種類の違う点数を与えないといけないんじゃないかな。
娘  そしてそのいろんな種類の点数を最後に足していけばいいのね。
父  足したら駄目さ。掛けるとか割るとかなら、意味があるかもしれんが、足すのは絶対駄目だ。
娘  どうして?
父  どうしてって、足せないんだよ。分からないか? ふむ。これじゃ算数も嫌いになるだろう。
   そういう一番大事な所を教わってないんだったら。学校では何を教えてるんだ? 何が算数だと思ってるんだろう。
娘  それ教えて。何が算数かって。

65 :名前なし:2009/08/28(金) 03:03:26 ID:pyCQJkjv
父  いや、その前に、知識の測り方の方が問題だ。算数っていうのは、一点の曇りもなく考えを進めていくために作り上げた一種のトリックなんだ。
   そこが算数のいい所さ。全てがスキッとうまくいく所が。それをだね、違った種類のものとごっちゃにしてしまったら、何のための算数か分からなくなってしまう。
   スキッと物事を考えるために何よりも大事なのは、違った種類のものはきちんと区別するということだ。
   いいかい、「オレンジ2つ」と「2マイル」では、同じ「2」でも違うだろう? 
   頭の中で「2」という観念が出来る所は同じだが、その種類が違うんだ。
   種類の違うものは足せないよ。オレンジ2個と2マイルを足してできるのは、頭の中のもやもやだけだ。
娘  でもパパ、頭の中で考えることって、つながってしまうでしょう? いつも別々にしておかなくてはいけないの?
父  いや、一緒にする時は、組み合わせる。足しては駄目だということだよ。
   頭の中に違った種類の数があって、それを組み合わせる時には、掛けるか割るかするんだ。
   そうすると、全然別の観念が出来る。新しい種類の量がね。
   例えば「何マイル」という観念と「何時間」という観念を組み合わせたければ、マイルを時間で割ってみる。
   そうすると「一時間に何マイル」となるね。これはスピードの観念だ。
娘  掛けたらどうなるのかしら?
父  どうだろう。「マイル時」というのになるわけだが……ん、パパ知ってるぞ、それ。
   タクシーの料金は、「マイル時」で払うんだ。タクシーのメーターには時計も一緒に組み込まれていて、
   距離と時間が掛け合わされるようになっている。それにまたある数を掛けて、「何ドル」という金額にするわけだ。
娘  あたし、前に、面白い実験をやったわ。
父  ほう。
娘  一度に二つのことが考えられるかどうかやってみたの。「今は夏だ」っていうのと「今は冬だ」っていうのを一緒に思ってみたのよ。
父  そうしたら?
娘  でもね、それ、二つのことを考えることじゃなくて、「二つのことを考える」っていう一つのことを考えることだったの。それが分かったんだ。

66 :名前なし:2009/08/28(金) 03:04:31 ID:pyCQJkjv
父  そう、そこだよ。二つの考えは混ざりはしない。組み合わさるしかない。
   ということは結局、「考え」というものを、幾つあるとか数えることは出来ないということじゃないかな。
   だって、数えるって、足していくことだからね。足し算じゃ駄目なんだ。ほとんどの場合。
娘  ふーん。組み合わさっていくのか。じゃあ、パパ、本当は大きな考えが一つだけあって、
   それがいっぱい枝みたいに分かれてるのかしら。とてもとても細かい所まで……
父  パパはそう思っている。知らないけれども。そう考えた方がスキッといくことは確かだ。
   知識が幾つとか言って数えてみるよりは、ずっとクリアな考え方だと思うね。

娘  パパ、脳の4分の1しか使ってないって言ったけど、どうしてなの? 後の4分の3は?
父  実はパパもね、昔学校へ行って勉強したんだが、そのおかげで脳の4分の1がもやもやに曇ってしまった。
   それからは新聞を読んだり、他の人に話を聞いたりしているうちに、また4分の1曇ってしまった。
娘  後の4分の1は?
父  後の4分の1は、自分でいろいろ考えをめぐらせているうちに曇ってきてしまったのさ。

67 :名前なし:2009/08/28(金) 03:06:07 ID:pyCQJkjv
輪郭はなぜあるのか


娘  パパ、輪郭はどうしてあるの?
父  輪郭? 輪郭って、あるのかね。どんなものに輪郭があるんだ。
娘  全部よ。絵を描く時、どんなものでも輪郭を描くでしょう? それ、なぜなのかなって……
父  羊の群はどうだ? 一頭の羊じゃなくて群全体。それにも輪郭があるか? 「会話」はどうだ?
娘  もう! 会話の形なんて絵に描けないでしょ? 「もの」よ、あたしの言ってるのは。
父  いや、お前の言っている意味を確かめようと思ってね。
   「物を描く時には、どうして輪郭を描くことになるのか」という意味なのか、
   それとも、描く描かないに関係なく、物には輪郭があるという意味なのか。
娘  どっちなのかしら……分からない。教えて?
父  うん、パパにも分からん。昔ね、すごいカンシャク持ちの画家がいた。
   あらゆる者の絵を描き殴った画家なんだが、死んでからある人が彼の本をめくってみると、
   あるページに「賢人は輪郭を見るがゆえに輪郭を描くのである」と書いてあった。
   ところが、別の所をめくってみると、今度は「狂人は輪郭を見るがゆえに輪郭を描くのである」と書いてあったんだ。
娘  どっちなの? その人が本当に思ってたのは。
父  その画家の名前はウィリアム・ブレイクというんだが、彼は偉大な芸術家であり、
   そしてすごいカンシャクの持ち主だった。時々自分の考えを紙つぶてにして、人に投げつけたりした。
娘  そんなにいつも怒っていたわけ?
父  そりゃもう。何しろ当時の人からは気狂いだと思われていた。そしてそう思われることで彼はまた怒り狂った。
   いや、彼はいろんなことに我慢がならなかったんだな。その一つが、物に輪郭がないかのように絵を描く描き方だ。
   そういう絵を描く連中のことを、彼は「ボケ画派」と言って馬鹿にした。
娘  変な名前。あまり寛容な人じゃなかったのね。

68 :名前なし:2009/08/28(金) 03:07:17 ID:pyCQJkjv
父  寛容? そんな言葉どこで覚えた? 学校ではそういうことを教えるのか。寛容であれと……
   そうだとも。ブレイクは寛容な人間じゃなかった。寛容でいるのがいいことだとも思ってなかった。
   それは、一種の「ボケ」だと思っていた。輪郭をぼやけさせ、全部一緒くたのごたまぜにしてしまうことだと思ってたんだ。
   どんな猫も全部灰色にしてしまうんだと。世界がくっきりクリアで見えないようにしてしまうんだ。
娘  はい、パパ。
父  「はい、パパ」? 何ていう返事だ。返事になっとらんじゃないか。
   自分の意見はありません、パパが何を言おうとブレイクが何を言おうと、
   そんなことは関係ありません、そういう意味にしかならんぞ、それは。
   「寛容」なんてことを学校で教えるからいかんのだ。
   だからみんな頭がボケて、大事な区別がつかないようになってしまうんだ。
娘  (泣き出す)
父  ごめん。悪かったよ、いきなり怒ったりして。お前に怒ったわけじゃないんだ。
   何時までたってもきちんと物事を考えようとしない人間というものに腹が立っただけなんだ。
   「寛容」なんてことを言って、物事はいい加減にしておくのが美徳であるかのように教えるやり方にね。
娘  でも、パパ---
父  何だね?
娘  ううん、分からなくなってきちゃった。ちゃんと考えられないの。みんなごちゃごちゃになっちゃって。
父  パパのせいだ。カンシャクなんか起こして、お前の頭をすっかり混乱させてしまったんだね。

娘  パパ?
父  何だ?
娘  あのこと、どうしてそんなに怒ったりすることなの?
父  あのことって?
娘  その---ものに輪郭があるかどうかってこと。ブレイクって人は、そのことで怒ったんでしょう? パパだってよ。何か理由があるんでしょ?
父  そうだな。それはね、どうでもいい問題ではないからだ。多分それが、全てのうちで一番重要な問題だからだ。
   それ以外に重要な問題は一つもないとさえパパは思うよ。この世にある重要な問題というのは、みんな輪郭の問題にからんでいる。
   その大きな問題の一部になっているから、重要になってくる。
娘  パパの話、分からないわ。

69 :名前なし:2009/08/28(金) 03:09:01 ID:pyCQJkjv
父  そうだな。じゃあ、「寛容」の話をしよう。ユダヤ人のことを、「キリスト殺し!」と罵る人には、パパは寛容になれない。
   なぜなら、その人は頭の中がボケてて、輪郭がきちんと引けないからな。キリストを殺したのはユダヤ人じゃないよ。イタリア人だ。
娘  そうなの。
父  ただし、彼らのことを、今は「ローマ人」と呼ぶ。彼らの子孫には、「イタリア人」という別な呼び名を使うわけだ。
   いいか。ユダヤ人のことを、キリストを殺した人と責める人間は、頭のピントが二重にボケている。
   まず、事実じゃないことを事実みたいに言うのは、歴史をぼやけさせることだ。
   それと、先祖がしたことの責任を子孫が取れというような言い方は、やっぱりどこかボケているだろうが。
娘  はい、パパ。
父  いいだろう。今度は怒るまい。パパの言ってるのは、そういう、物事をごちゃ混ぜにして平気でいる人間には、寛容になってはいけないということさ。
娘  パパ?
父  何だ。
娘  前に、ごちゃまぜの話、したでしょう? 今もまた同じ話をしてるのかしら?
父  そうだよ。もちろんさ。この間やった話が重要なのも、今の話とつながってるのさ。
娘  あの時、パパ、物事をくっきりさせるのが科学だって言ったのよね。
父  そうだ。その話を、今してるんだよ。

娘  パパの言うことって、うまく理解できないの。別のことだと思ってたことが、
   すぐにくっついてしまうんだもの。分からなくなっちゃうわ。
父  難しいだろうってことは分かるよ。肝心なのはね、この会話にも本当は輪郭があるっていう所なんだ。
   はっきり形にしてみるにはいかないんだがね。

70 :名前なし:2009/08/28(金) 19:14:42 ID:pyCQJkjv
父  徹底的に混乱した世界というのはどんなだか、考えてみよう。何から何までごっちゃごちゃの世界。
   そこから何か糸口がつかめるかもしれない。『不思議の国のアリス』に、おかしなクロッケーのゲームが出てくるね。
娘  うん、フラミンゴでやるものでしょう?
父  そう、それだ。
娘  ボールはヤマアラシなのよね。
父  ハリネズミだよ。イギリスにはヤマアラシはいない。
娘  えっ、あれイギリスのお話だったの。知らなかった。
父  イギリスに決まってるじゃないか。アメリカにダッチェス(公爵夫人)がいるかね。
娘  「ダッチェス・オブ・ウィンザー」って、いるじゃない。
父  しかし、そのダッチェスにはとげとげはないだろう。ハリネズミについているような立派な奴は。
娘  ナンセンスなことを言うのやめて、アリスの話を続けてちょうだい。
父  えーと、フラミンゴか。あのアリスの話の作者はね、パパとお前が今考えているのと同じ問題を考えていたのさ。
   何もかも徹底的に混乱させていったらどうなるか想像して、それをアリスの物語に書き込んだわけだ。
   木槌のかわりにフラミンゴにすれば、どんな風に球に当たるか全然予測がつかない。
   勝手に首が曲がってしまうんだから、上手く当たってくれるかどうかも分からない……
娘  それに、球が勝手に歩いていっちゃうかもしれない。ハリネズミだから。
父  そう。次にどういうことになるか、誰にも全然見当がつかないわけだ。
娘  そして球を通す輪も歩いていっちゃうの。兵隊がやってくるから。
父  そう。全部が動く。そして、どう動くのか、動くまで分からない。
娘  ねえ、パパ、みんな生きていないといけないのかしら。そうでないと、あんなに滅茶苦茶にはならないわよね。

71 :名前なし:2009/08/28(金) 19:15:51 ID:pyCQJkjv
父  いや、生きていないものでも---待てよ。そうだよ。お前の言う通りだ。いや、これは面白い。
   生き物を使わないと、全くの予測不可能な世界というのは作れないんだな。
   他のやり方では、いつかはプレーヤーに対処の仕方を覚えられてしまう。
   グラウンドをでこぼこにしても、いびつな球を使っても、木槌のヘッドをぐらぐらにしておいても、
   ゲームは難しくなりはしても、不可能にはならない。
   ところが生き物を持ち込むと、途端にゲームが成立しなくなる。いや、これはパパも気がつかなかった。
娘  本当? あたしには、自然なことみたいに思えるけど。
父  自然か。そりゃ、自然の出来事だが、しかしパパは、今までそういう風には考えてみなかった。
娘  そう? 当たり前のことなのに。
父  しかし、パパには思いもよらなかった。いいかい。先のことを予測して動くことができるというのが動物の際立った特徴なんだ。
   猫が鼠に飛び掛る時には、着地の瞬間に鼠がどこまで走っているか予測を立てて、それにあわせてジャンプの仕方を調節する。
   そういう特別なことが動物には出来るんだ。そして、だからこそ、逆に動物の動きが、この世で唯一つ本当に予測できないものになる……
   人間の法律というのも、妙なものだな。人間の動きに規則を押しはめて、予測できるようにしようっていうんだから。
娘  予測が出来ないから、法律を作るんじゃない? 法律を作る人は、予測できるようにしたいのよ。
父  だろうね。

72 :名前なし:2009/08/28(金) 19:17:07 ID:pyCQJkjv
娘  今の話は、何についての話だったの?
父  何についての話かな。パパにもまだくっきりとは見えてきていないんだ。
   クロッケーのゲームを完全に混乱刺さるには、生き物ばかり使えばいいとお前が言った所から、
   新しい考えの道筋が開けて、そこを探っているんだが、まだ疑問がつかまらないんだよ。どこかこう、おかしいんだな。
娘  どこが?
父  うん、そこがまだぼやけてるんだな。生き物と生きていないものを区切る仕切りがね。
   動物と機械は折り合いが悪いだろう? 上手くフィットしない。
   みんな自動車で動いている所に、馬で入っていったら、交通ががたがたになってしまう。
   それもフラミンゴでクロッケーをやるのと結局同じことになるんだな。ポイントは馬の動きが予測できないところにある。
娘  人間はどうなの? 人間だって生き物でしょ? うまくはまりこめるのかしら。車の中に。
父  本当はうまくはまっていないのさ。一生懸命努力して、いろいろ予防線を張って、それで何とかやってる。
   自分の動きが予測可能になるように必死で頑張ってるわけだ。そうじゃないと機械が怒って襲ってくるから。
娘  機械が怒ったら、それ、予測できない機械にならない? パパと同じになっちゃう。
   パパっていつ怒るか分からないもの。パパにだって分からないんでしょ?
父  そうだな。
娘  でも、予測できなくたっていいわ、パパは。その方がいい。いつ怒り出すか分からないのは嫌だけど。

73 :名前なし:2009/08/28(金) 19:18:14 ID:pyCQJkjv
娘  会話にも輪郭があるって言ったでしょ? あれ、どういうことなの? この会話にも輪郭があるのかしら。
父  あるともさ。ただ、終わらないうちは見えない。輪郭というのは、内側からは見えないものなんだ。
   だって見えてしまったら、どうなる? 二人でこれから何の話をするのかまで、みんな決まっていたとしたら。
   それじゃ、お前もパパも、二人を一緒に合わせたのも、予測可能な生き物になってしまうよ。機械と一緒だ。
娘  パパの言うこと、分からないわ。物事をいつもくっきりはっきり見えるようにしておかなくちゃいけないって、
   言ったばかりなのに、輪郭をぼやかす人がいると怒るんでしょう? 
   なのに今は、予測がつかないほうに、機械みたいじゃない方に、味方してるみたい。
   それとね、会話が終わらないと輪郭が見えないなら、その会話がくっきりクリアなものかどうかって、
   分からないじゃない。だったら何とかしようと思っても、できないわよ。
父  そうさ、何もすることは出来ない。でも、何かしたいと思うのか? この会話に。

74 :名前なし:2009/08/28(金) 19:30:26 ID:pyCQJkjv
人が白鳥になる理由



娘  なぜ白鳥に見えるのかしら。
父  「ペトルーシュカ」に出てくる人形は? あれは、どうして人形に見えるのかな?
娘  でも人形って、最初から人間の形をしているでしょう? 「ペトルーシュカ」の人形なんか、すごく人間らしいわ。
父  一緒に出てくる人間よりも人間的かもしれないね。
娘  そうよ。
父  しかしそうはいっても、やっぱり人間のようなもの、でしかない。あの白鳥だってそうさ。

娘  じゃあ、バレリーナの方は? 人間なの? それは人間には違いないけど、
   でも、舞台で踊ってる時は、普通の人間らしくない。躍ってない時のあの人とは違ってるのよ。
   人間なんだけど、人間じゃない何かになっているの。
父  つまり、こういうことだな。あの"白鳥"は、水かきもないし、ただ白鳥のようなものにすぎない。
   そして、あのバレリーナも、人間としての個性がなくて、ただ人間のようなもの、にすぎない。どうだ?
娘  どうなのかしら?

75 :名前なし:2009/08/28(金) 19:39:53 ID:pyCQJkjv
父  いや、「白鳥」と「人間」を最初から別々のものとして考えるのは、うまくない。
   舞台の上で踊ってるものが、白鳥のようであると同時に人間のようである、と考えた方がいい。
娘  でも、「白鳥のよう」と言う時と「人間のよう」と言う時で、言葉の意味が違ってないかしら。同じ「よう」でも。
父  うん、違うようだね。とにかく、あの白鳥が人間のようだsort ofといっても、それは「人間という種族sortに入る」という意味ではない。
娘  それはそうだわ。
父  寧ろ、「バレーの人形」と「バレーの白鳥」と「人間」とを全部一緒に包む大きなグループの中の、一つの小さなグループに入る、ということだ。
娘  「グループ」とか「入る」とか、そういうのとは違う気がする。パパの言うその大きなグループに、ガチョウは入るの?

父  「舞台の上で一種の白鳥が踊っている」という時の「一種の」が、正確にどういう意味なのかは、パパには分からない。
   しかし、その「一種の」という言葉によって結ばれている関係---「なぞらえ」の関係というかな、
   それが詩や空想やバレーや美術の全体が持っている意味や重要さに関わっている、ということは分かっている。
娘  その「一種の」の意味は分からないの? じゃあ、バレリーナがなぜ白鳥とか人形とかいろいろに見えるのかは分からないのね。
   芸術とか詩とかがどういうものかも、言うことが出来ないのね。
父  いや、そうじゃない。

76 :名前なし:2009/08/28(金) 21:14:48 ID:pyCQJkjv
父  フランス語での「一種の」という意味の言葉には、特別なパンチがあってね。
   誰かのことを「あいつはラクダだ」とフランス語で言うと、これは親しみのこもった悪口になるんだが、
   「あいつは一種のラクダだ」というと、ただの悪口にしかならない。「一種の一種だ」と言うと、もっとひどい悪口になる。
娘  一種の一種のなに?
父  ただの「一種の一種」。そういう言い方をするんだ。ところが、「あいつは本物のラクダだ」と言った時には、
   軽蔑や冷やかしの中に、「それはそれで、えらいもんだよ」と感心する気持ちが入り込んでくる。
娘  でも、フランス人が誰かのことを「一種のラクダ」問うのと、
   あたしが白鳥のことを「一種の人間」と言うのとでは、同じ「一種」でも、違うんじゃないかしら。
父  パパは今「マクベス」の一節を思い出していた。バンクォウを殺すために殺し屋を差し向ける所なんだが、
   その殺し屋が、自分たちは「男」だと言う。するとマクベスは、「一種の男」だと言い直すんだな。


さよう、帳面上で分類すれば男のうち。
猟犬も闘犬も座敷犬も、
柴犬もむく犬も狼犬も、
帳面づらではみな犬のうちだからな。(第三幕・第一場)


娘  それって、さっきパパが言ったことと同じでしょう? 
   「大きなグループの中の一つの小グループ」? そういう「分類」みたいなのとは全然違うと思うんだけど。
父  いや、パパが言いたいのは別のことさ。マクベスが喩えに「犬」を持って来た所が重要なんだな。
   「犬」という言葉は、高貴な犬も意味すれば、ごろつきの野良犬も意味する。それが「飼猫」だとそうはいかない。
   あそこで、三毛猫とか、ペルシャ猫とかの種類を並べても、同じようにはいかないわけだよ。野生のバラの細かい種類を言ってみてもね。
娘  それはいいの。あたしの質問はどうなの? フランス人が誰かのことを「一種の」ラクダと言う時と、
   あたしが白鳥のことを「一種の」人間と言う時で、「一種の」と言う言葉の意味は、同じなの?

77 :名前なし:2009/08/28(金) 21:16:07 ID:pyCQJkjv
父  分かった。「一種の」と言う言葉の意味を分析すればいいんだな? 
   「ぺトルーシュカの人形は、一種の人間である」とパパが言う時、パパは関係について述べている。いいね?
娘  何と何との関係?
父  観念同士の関係だろう。
娘  人形と人間の関係じゃなくて?
父  そうじゃない。人形についてパパが抱いている観念と、人間についてパパが抱いている観念との間の関係だ。
娘  ふーん。

娘  それはどんな関係なの?
父  そうだな。比喩的関係とか、「なぞらえ」の関係とか言うんだろうか。

父  それとともに、「絶対になぞらえられはしない」と激しく主張される関係がある。
   パンとワインは肉と血の一種ではない、と主張したために大勢の人が処刑されたこともあるんだ。
娘  それ、同じなの? つまり……「白鳥の湖」のバレーも、聖体sacramentなわけ?
父  そうだ。パパはそう思う。少なくとも、ある人たちにとっては聖体だろうね。
   プロテスタントの言い方にならえば、その人たちにとって、白鳥のコスチュームやバレリーナの動きは、
   女性の「内的で霊的な優美さの、外的で可視的なあらわれ」となるわけだ。
   しかし、カトリックの人たちにとっては違う。そういう言い方をしたのでは、バレーに神聖さはこもらない。ただの比喩表現になるだけだ。
娘  ある人たちにとってバレーが聖体になるっていうのは、プロテスタントの人にとって、っていうこと?
父  そうじゃない。パパが言うのは、パンとワインが比喩表現にしか---ただの肉と血のようなものにしか---ならない人たちと、
   カトリックのように神聖な者になる人たちがいるとすれば、バレーだって、それを比喩と捕らえる人と、
   「比喩などではない。もっと神聖な何かだ」という風にこだわる人がいるだろう、ということだ。つまりそれは「聖体」だと。
娘  カトリックの人たちが言う意味で?
父  そうだよ。

78 :名前なし:2009/08/28(金) 21:17:28 ID:pyCQJkjv
父  つまりだね、もし「そのパンとワインは肉と血の一種ではない」ということの厳密な意味を、きちんと言うことが出来たとしたら、
   「その白鳥は人間のようだ」ということの意味も、「そのバレーは聖体だ」ということを意味も、もっときちんと言えるようになるだろうということだよ。
娘  でも……どうやって区別するの?
父  何をだね?
娘  聖体と比喩。

父  待て待て。今パパとお前は、結局のところ、詩人とかバレリーナとか、
   それを見ている聴衆とか、要するに「人間」のことを話題にしているんじゃないだろうな? 
   聖体と比喩がどう違うかという問題だって、答えは実際その場にいる人間を離れて出てこないんだ。
   あるバレリーナがある公演で踊ったバレーが、彼女にとって聖体になるかどうか---そういう風に問を立てなくちゃいけない。
娘  いいわ。その質問に答えて。
父  答えは、秘密になっている。
娘  教えてくれないのね。
父  いや、パパが隠しているんじゃなく、隠されているんだ。口では言えない種類の答えなのさ。
娘  どうして言えないの?
父  楽屋でバレリーナをつかまえて、「あなたの踊るバレーは、あなたにとって聖体なんですか、それともただの比喩表現なんですか?」と聞いてごらん。
   そんなことを聞いても、相手はきょとんとするだろうが、まあ、質問の意味が通じたとするよ。彼女は多分こんな風に言って質問をはぐらかすだろう。
   「ごらんになったのはあなたですもの、あなたにとって聖体なのかどうか、あなたがお決めになったら?」
   或いは「聖体になるときも、ならない時もあります」とか「今日のあたし、どうでした?」とか。踊る当人が、直接制御できるわけじゃないんだな。

79 :名前なし:2009/08/28(金) 21:18:50 ID:pyCQJkjv
娘  その、パパの言う秘密、それが分かったとしたら、その人はすごいバレリーナになれるのかしら。
父  そうじゃない。そういうことには全然ならない。偉大な芸術も、宗教も、みんなこの秘密に関わってくるんだが、
   その秘密を知った---意識で捉えた---として、それで偉大な作品が作れたり、
   宗教的感動に浸れたりするわけではない。知ったからといって、制御する力は手に入らないのさ。

娘  ねえ、どこから変わっちゃったのかしら。最初に話してたのは、白鳥が「一種の」とか「ようだ」とかいう言葉の意味のことだったでしょう? 
   そこから、「よう」には二つの意味があって、舞台で踊っている"白鳥の人"までいったのよね。
   それが、いつの間にか秘密とか制御とかの話になってくる。
父  いいか、最初から言い直そう。あの白鳥は、本物の白鳥ではなくて、誰かが「なりすました」白鳥だとね。
   ところがその、白鳥になりすましている人は「なりすましたのではない」人間だ。
   嘘の白鳥であると共に、白いドレスを着た本当の女の人でもある。そして本当の白鳥は、どこか若くて優雅な女の人のようである---
娘  今言った中のどれが聖体?
父  まだ駄目かな。どれかが聖体になるなんてことはないんだよ。一つじゃ駄目だ。
   全部がうまく結びついて聖体が出来る。「なりすました」のと「なりすましたのでない」のと「本当」と。
   どうにかして溶け合って一つの意味になる。そうとしかパパには言えない。
娘  嘘と本当を混ぜたりしていいの?
父  論理学者や科学者は駄目だと言うだろうね。でも彼らのやり方で、バレーが出来るわけじゃない。聖体もね。

80 :名前なし:2009/08/29(土) 18:40:49 ID:wYMdWBcL
本能とは何か



娘  パパ、本能って、何なのかしら?
父  本能とは、一つの説明原理さ。
娘  何を説明するの?
父  何もかもだ。説明してもらいたいことなら何でも説明してくれる。
娘  嘘でしょ? 重力は説明してくれないわ。
父  それはだね、誰も"本能"で重力を説明したくないからだ。その気にさえなれば、
   立派に説明してしまうよ。「月は距離の二乗に反比例する力で、物体をひきつける本能がある」とかね。
娘  そんなのナンセンスじゃない。
父  そうさ、だが「本能」なんて事を言い出したのはお前だぞ。パパじゃない。
娘  いいわ。でも、じゃあ、パパ、重力は何で説明したらいいの?
父  重力を説明するのか。それはね、ないんだ。なぜなら重力が一つの説明原理だからだよ。
娘  ふーん。

81 :名前なし:2009/08/29(土) 18:42:35 ID:wYMdWBcL
娘  説明原理は説明できないの? 別の説明原理を使ったら駄目?
父  ふむ。駄目ということだな。ニュートンのhypotheses non fingoという言葉は、そのことを言っている。
娘  どういう意味なの?
父  hypotheses(仮説)というのは、分かるね? 出来事を記述する文章を二つ並べて、
   それをつなぐ時に言う言葉、それが仮説だ。つながりさえすれば何だっていい。
   「二月二日は満月だった」、「三月一日は満月だった」この記述を繋げる発言は、全部仮説だよ。
娘  うん。えっと、nonは知ってる。fingoって?
父  fingoというのは後期のラテン語でI makeという意味だ。その名詞のはたらきをする形がfictioでfictionという語はそこから来ている。
娘  ニュートンは、仮説というのはみんなフィクションだって考えたの? ただの作り話だって。
父  その通り。
娘  でもニュートンは重力を発見したんでしょ? 林檎が落ちるのを見て。
父  そうじゃない。重力を発明したんだ。作ったのさ。
娘  ふーん。じゃあ、本能を発明した人もいるのね。誰?

父  知らないな。随分昔から使われている。聖書にさかのぼるだろう。
娘  重力という考えも、記述と記述をつなげるものでしょう? それだって仮説じゃないかしら。
父  そうさ。
娘  じゃあ、ニュートンも仮説を作ったんじゃない。
父  その通り。とても偉大な科学者だったんだ。ニュートンという人は。
娘  ふーん。

娘  「説明原理」は「仮説」とは違うものなの?
父  そんなには違わない。ただ、仮説というのは一つ一つの出来事を説明するためのものだが、
   "本能"とか"重力"とかいう説明原理は、本当の所は何も説明しないんだ。
   ある点から先はもう説明するのはやめましょう、という科学者同士の取り決めというかな、それが説明原理だよ。
娘  ああ、ニュートンの言ったのはそういう意味だったの。"重力"が何も説明しなくて、
   ただ説明の終わりにつける印みたいなものだったら、重力を作っても仮説を作ったことにはならない---
父  そうだな。説明原理を説明するものはないんだ。ブラック・ボックスみたいなものだよ。
娘  ふーん。

82 :名前なし:2009/08/29(土) 18:43:40 ID:wYMdWBcL
娘  ブラック・ボックスって?
父  ブラック・ボックスというのは、ある点から先を説明しないですますための科学者同士の取り決めのことさ。普通は一時的な取り決めを言うがね。
娘  全然「ブラック・ボックス」みたいじゃない。
父  だが、そう言うんだ。そのものらしく聞えない名前というのも、世の中には随分ある。
娘  うん。
父  もともとはエンジニアの言葉でね。複雑な機械の設計図を書く時に、一種の速記というかな、
   細かい所までいちいち描くのは面倒だから、箱を一つ置いて、
   その中のいろいろな部分が全体として「何をするか」ということのラベルを、その箱に貼っておいたわけだ。
娘  「ブラック・ボックス」っていうのは、じゃあ、細かなことが集って全体として何をするかということのラベルなのね。
父  そう。「どんな仕組みでそういうはたらきが現れるのか」ということの説明ではない。
娘  じゃあ、重力っていうのも……
父  中がどうなっているのか分からない箱の、全体としてのはたらきを示すラベルだ。
   「どういう仕組みで、そういうはたらきが現れるのか」ということの説明じゃない。
娘  ふーん。

娘  本能も?
父  それも、あるブラック・ボックスに貼り付けたラベルだな。それが「何をするか」ということのね。
娘  何をするの?
父  難問だな、これは。
娘  ねえ。
父  本能は生命体の行動をコントロールする、部分的にコントロールする、と考えられている。
娘  植物にも本能はあるのかしら。
父  いや、植物のしていることに本能を持ち出したとしたら、その人は植物の世界を動物のイメージで汚染したことになる。
娘  それ、悪いことなの?
父  ああ、凄くね。植物学者が植物を動物のように見立てるのは、動物学者が動物を人間のように見立てるのと同じくらい悪いことだ。
娘  ふーん。

83 :名前なし:2009/08/29(土) 18:45:07 ID:wYMdWBcL
娘  行動を「部分的にコントロールする」って、どういうこと?
父  犬が崖から落ちるとするね。その時落下という運動を支配しているのは重力ということになる。
   しかし、落ちながら犬が身体をくねらせるとすれば、そちらの動きの方は本能の支配を受けているということになる。
娘  「自己保存本能」?
父  だろうね。
娘  パパ、「自己」って何? 犬も、自己があるってことを知ってるの?
父  さあ、どうだろう。でも、もし犬が自己というものを認識していて、
   その自己を保存するために身体をくねらせるんだったら、それは知的な行動になるな。本能的なものじゃなく。
娘  じゃあ、「自己保存本能」って矛盾してるじゃない。
父  まあ、半分だけ、動物を人間に見立てていることになる。
娘  だったら、それ、悪いことよ。半分だけ。
父  しかし、犬が事故というものを意識していながら、その自己を守らなくちゃいけないとは意識していないのだったら、
   今度は身体をくねらせないで落ちていく方が「知的」な行動だ。
   それでも身体をくねらせるんだったら、それは「本能的」だということになる。
   ただし学習して身につけるんだったら、「本能的」ではない。

娘  本能的でないって、どっちが? 学習する行動? 身体をくねらす行動?
父  身体をくねらす方さ。
娘  学習する方は本能的なのね。
父  そういうことになるね。学習する能力を学習で身につけなければならないんだったら別だが。
娘  ふーん。

84 :名前なし:2009/08/29(土) 18:47:02 ID:wYMdWBcL
娘  でも、パパ、本能ってどんなことを説明するために作られたの?
父  厄介な質問だな、それは。本能っていう考え方は、遺伝学が知られていなかった頃にできたものだし、
   遺伝学の考え方だって、その大部分は、コミュニケーション理論が知られていなかった時代のものなんだ。
   だから、"本能"とは何かを、今の科学の言葉で言い直すには、二重の壁を越えないといけない。
娘  それで?
父  細胞の染色体の中に、遺伝子があるというのは知っているね。
   遺伝子というのは、その生物の生長developpingと行動behavingを指図する一種のメッセージだ。
娘  生長するのは、行動することのうちではないの? どう違うの? 「学習」はどっちに入るの? 学習するって、生長すること? 行動すること?
父  待て待て、質問は慎重に作らなくちゃいけない。生長と学習と行動を、先ず全部一緒にバスケットに放り込んでみるといい。
   そして、生長---学習---行動という具合に、次第に色が変わっていくスペクトルとして捉えるんだ。
   そうした上で、このスペクトル全体の説明に、「本能」がどう関わってくるのか考えていく。それが正しい手順だよ。
娘  でもそれ、本当のスペクトル?
父  いや、スペクトルのようなもの、さ。厳密に言っているわけじゃない。

娘  でも、「本能」というのは全部、そのスペクトルの「行動」の側に来るんじゃないかしら。
   それに「学習」って環境で決まるんでしょ? 染色体なんかとは関係なく。
父  まずこのことを押さえておこう。染色体そのものには、行動も学習も体部構成anatomyもない。
娘  染色体って、何かで構成されたものではないの?
父  あ、それは別だ。染色体にも、それ自身の体部構成はあるし、生理機能physiologyだってある。
   だが遺伝子と染色体の構成と機能は、その動物の体全体の構成と機能とは違うものだね?
娘  それは違うわよ。
父  しかし染色体の構成と機能は、体全体の構成と機能についてのもの、なんだ。
娘  構成についての構成?
父  そう。一つの単語だって文字で構成されてるだろう? その文字や単語をつなげていくと、あらゆることの文章が生まれていく。それと同じさ。
娘  ふーん。

85 :名前なし:2009/08/29(土) 19:18:23 ID:IzD8haXv
娘  遺伝子と染色体の体部構成が、体全体の構成についてのもので、
   遺伝子と染色体の生理機能が、体全体の生理機能についてのものなのね。
父  それは違う。そういうことには全然ならない。なぜなら、体部構成と生理機能は、別々のものじゃないからさ。
娘  分かった。また一つのバスケットに入れるんでしょ? 生長---学習---行動の時みたいに。
父  もちろん。

娘  さっきと同じバスケットに入れるの?
父  そうさ。いけないか? そのバスケットの真ん中には、「生長」が来るんだ。真ん中にね。
娘  ふーん。

娘  染色体や遺伝子に構成と機能があるんだったら、生長もあるんでしょうね。
父  その理屈は通るな。
娘  その生長は、体全体についての生長なのかしら?
父  その質問の意味すらパパには分からんね。
娘  こういうことにならない? 動物の赤ちゃんが、お腹の中で生長してる時、染色体と遺伝子も生長していて、
   その染色体の生長が赤ちゃんの生長を指令しているの。そうだとしたら、その染色体の生長は、生長についての生長になるでしょう?
父  いや、そういう風にはなっていないはずだ。
娘  ふーん。

娘  染色体も学習するのかしら?
父  どうだろう。パパは知らん。
娘  染色体って、なんか、ブラック・ボックスみたい。
父  そうだね。しかし、もし染色体や遺伝子に学習が可能だとしたら、それは凄く複雑なブラック・ボックスになる。
   今誰が考えているよりも複雑なね。科学者というのはいつも、世界が単純にできていると考えたがるんだな。
   そしてその期待は、決まって裏切られる。

86 :名前なし:2009/08/29(土) 19:19:50 ID:IzD8haXv
娘  それ、本能?
父  何がだね?
娘  その、世界が単純にできているって思うこと。
父  もちろん違うさ。そう信じるように学習してきたんだ。
娘  変な学習ね。いつも間違うように学習するなんて。
父  そういうことを言ってはいかん。科学者に失礼だし、おまけに不正確だ。
   世界が単純にできていると考えるたびに、科学者が誤りを犯しているわけじゃない。
   正しい場合、部分的に正しい場合も、結構ある。もっと多くの場合、自分で正しいと思い、お互い「正しいんだ」と言い合う。
   世界が単純だと考えて、不都合なことになるばかりか、逆に賞賛されるんだから、この考え方が身についたとしても不合理ではないだろう。
   とにかく、いつも間違うように学習することが生物の世界で起こらないと考えたら、それは全くの誤りだ。

娘  どういうときに、科学者は「本能」という言葉を使うの?
父  そう、その質問の方がベターだ。まず、動物の行動を見て、それが学習された者でないことが明らかに思える時、
   そして、その行動の意味を理解できるほど、その動物が利口じゃないということが、
   自信を持って言える時。そういう場合、科学者はその行動を本能的なものだという。
娘  それだけ?
父  まだある。同じ状況で、同じ種に属する仲間がみんな同じ行動をとる時。
   そして、状況が変わって、その行動に意味がなくなっても、同じ行動を繰り返しやっている時。
娘  本能的な行動かどうかを知るのに、四通りの知り方があるのね。
父  そうじゃない。科学者が説明の時に「本能」を持ち出す条件が四通りあるということさ。
娘  そのうち一つが欠けてたらどうなるの? 本能って、「習慣」とか「慣習」とかに似てるのね。
父  しかし習慣は、学習で身につけるものだ。
娘  そうね。

87 :名前なし:2009/08/29(土) 19:21:08 ID:IzD8haXv
娘  習慣を身につけるには、いつも二度学習しなくちゃいけないの?
父  二度?
娘  つまりね、ギターのコードを習う時とか、最初にどことどこを押さえるか習って、
   それから練習して、そういう風に指を動かす習慣をつけていくわけでしょう? 
   それをきちんとやらないと、悪い習慣がついてしまうの。
父  そう、いつも間違うように学習が行われることもある---
娘  それはもう分かったって。でも、学習が二度あるんでしょう。
   それで、もしね、ギターを弾く本能があったとしたら、どちらの学習も要らなくなるのかしら。
父  そうだね。どちらの学習も全然されていないことが明らかなのに、
   いきなりギターを弾く生き物がいたとしたら、科学者は本能で説明しようとするかもしれない。
娘  片方の学習だけないってこと、ある?
父  さあ。それは誰にも分からんことだよ。

88 :名前なし:2009/08/29(土) 19:22:21 ID:IzD8haXv
娘  鳥の歌って、あれは学習するのかしら?
父  考え方としては可能だと思うがね。しかしそうなって来ると、"本能"って一体何だ?
娘  説明原理よ。パパ言ったじゃない。一つ分からないことがあるんだけど。
父  何だね?
娘  大きな本能が一つあって、それがいろいろにはたらくの? それともたくさんの本能が別々にあるの?
父  うん、それはいい質問だ。そのことで科学者は随分議論してきたんだよ。いろいろな本能を別個に作ったり、それを一まとめにしてみたり。
娘  それで、どっちが正しいわけ?
父  どっちという風に答えは出ないが、説明原理は、必要以上に増やしてはいけない、ということは言える。
娘  ……?
父  一神教の考え方だよ。小さな神様が二人いるより、大きな神様が一人いる方がいいっていうことだ。
娘  神も説明原理なの?
父  そうだとも。とても大きな説明原理だ。一つのブラック・ボックスで---一つの本能で---説明がつくことを、
   二つブラック・ボックスを使って説明するのはよくない。
娘  ブラック・ボックスが十分大きければいいのね。
父  いいということでもないが。
娘  本能にも大きなのと、小さなのがあるの?
父  実際そうであるかのような言い方がされる。ただし小さな本能は「本能」という名前は使わずに、別の名前で呼ぶんだ。
   「反射」とか「生得的解発機構」とか「固定的動作パターン」とか。
娘  分かった。宇宙全体のことは神で説明して、もっと小さなことは、鬼や妖怪のしわざにするの。
父  まあ、そんなところだ。

89 :名前なし:2009/08/29(土) 19:24:08 ID:IzD8haXv
娘  大きな本能を作るときは、いろいろな行動が全部入ることになるわね。その時は、どうやって一つに纏めるの?
父  たとえば、崖から落ちる時身体をくねらせる行動と、火を見ると逃げる行動が観察されたとすると、それに別々の本能を充てるんじゃなくて---
娘  両方とも、自己保存本能で説明するのね。
父  そういうことだ。
娘  でも、その二つを一つの本能で纏めてしまうと、犬にも"自己"があって、その"自己"を利用して生きているという風にしか言えなくなってしまうのね。
父  そういうことになる。
娘  歌う本能と、歌を練習する本能は、どう考えたらいいのかしら。
父  その歌が何に使われているかによるだろう。どちらも縄張り本能に入れられるかもしれないし、生殖本能に入れられるかもしれない。
娘  あたしだったら、一つにまとめたりしないわ。
父  ほう。
娘  だって、もしその鳥が、餌をついばむ練習とかもするとしたらどうなるの? 
   その分だけ、本能の数を増やさなきゃいけなくなるわ。本能は、必要以上に増やしてはいけないんでしょう?
父  よく分からんが……
娘  いい? 餌をついばむ練習は餌鳥の本能で説明して、歌の練習は縄張り本能で説明するより、
   両方とも「練習本能」というもので説明する方がいいと思うの。ブラック・ボックスが一つ少なくて済むでしょう?
父  しかし、それじゃ「同じ目的を持った」行動を、一つの本能でまとめるという原則が崩れてしまうよ。
娘  そうだと困るの? 分からないな。だって、鳥が目的を持っていて、そのために練習するのだったら、
   それは、本能的な練習じゃなくて、知的なものになってしまうでしょ? パパ、そんな風に言わなかった?
父  ああ、確かにそんな風に言った。

90 :名前なし:2009/08/30(日) 00:54:34 ID:J+tKqRn0
娘  「本能」なんて考えずにやっていくことはできないのかしら。
父  それで、どうやって説明するんだね?
娘  細かい所だけ見ていくのよ。何かがぽんと飛び出てくると犬はジャンプするとか、足の下に何もないと身体をくねらせるとか……
父  つまり、神をなくして、小さな妖怪だけにする---
娘  うん。
父  実は、そういう考え方でやっている研究者もいるんだ。その方が、むしろ今は主流でね。より「客観的」ということらしい。
娘  本当に客観的なの?
父  それはそうだ。間違いない。

娘  「客観的」ってどういう意味?
父  自分が見ようと決めたものを、しっかり目を凝らしてみるということだ。
娘  それは正しいことみたいだけど。でも、何に対して客観的になるかは、どうやって決めるの?
父  それは、客観的になりやすいかどうかで決める。
娘  見ている人が、客観的になりやすいかで?
父  そうだよ。
娘  どうしたら、それが分かるの?
父  実際にやってみて、経験的に知るんだろうな。
娘  じゃあ、主観的に決めるのね?
父  そうさ。経験は全て主観的なものなんだ。
娘  でもそれ、ただ主観的というじゃなくて、人間の主観よね。動物の世界をいろいろ分けて、
   そのうちどれを客観的に調べるのか、人間の主観で決めるわけだから。
   それ、さっきの「動物を人間のイメージで汚染する罪」にならない?
父  うん。しかし、人間のイメージといっても、非人間的な奴なんだ、それは。
   客観性にこだわる人は、出来るだけ人間的でなくなろうと努力するんだから。

91 :名前なし:2009/08/30(日) 00:56:01 ID:J+tKqRn0
娘  そうすると、どういうものが外されるの?
父  外されるって?
娘  主観的な経験で、どれを見詰めれば客観的になれるか知って、そのことについて研究するんでしょ? 
   そうすると研究されないものが出来るわ。なかなか客観的になれないもの。
父  そうだな。まず、お前の言った「練習」。もっと広く「実践」と言ってもいいんだが、そういうものに対しては、客観的になりにくい。
   それから「遊び」や「探求」。両方とも同じ理由で、客観的になりにくいものだ。
   鼠の行動を見て、その鼠が遊んでいるのか探求しているのか、本当はどちらなのか、客観的に見極めるのは容易じゃないよ。
   だから客観的な人間は、そういうことは研究しない。それから、「愛」があるね。もちろん「憎しみ」も。
娘  そう。今パパが言ったものって、みんな「本能」を考えたくなるものばかりね。
父  そうだな。それと、「ユーモア」も忘れてはいけない。

娘  パパ、動物も客観的になる?
父  さあ、多分、ならないだろう。主観的にもならないと思うよ。そういう風には分かれていないんだと思う。

92 :名前なし:2009/08/30(日) 00:57:14 ID:J+tKqRn0
娘  人間は自分の中の動物的な部分には、客観的になるのが特に難しいって、本当?
父  だろうね。フロイトはそう言っている。なぜだ?
娘  だって、あの人たち、大変そう……客観的な研究が専門なのに、動物の研究をしようとしているんだもの。
   客観的になるには、出来るだけ動物的でなくならないといけないでしょう? 気の毒だわ。
父  いや、それは理論としては少し弱いぞ。人間の中の動物的な部分のうち、客観的に対応できる事柄が全くないと分かったわけじゃないんだから。
   人間が客観的になれない事柄の集合に、動物の行動の全体が入るということが証明されないうちに、そういうことを言ってはいかん。
娘  ふーん、そうなの。
娘  人間と動物の、本当に大きな違いって、何?
父  そうだな---知性、言葉、道具。その種のものだ。
娘  言葉で、道具のことを考える時は、客観的になるのが簡単なのね?
父  そうだよ、その通りだ。
娘  じゃあ、人間の中に、もう一つ違った生き物がいると思えばいいんだ。
   言葉や知能とかで出来ていて、全然違ったやり方でものを見る生き物。「客観的な生き物」
父  そう。言葉と道具を通過するのが、意識と客観性への王道さ。
娘  でも、その客観的な生き物が、残りの、人間が客観的になりにくい部分を、
   客観的に見詰めるとどうなるのかしら。ただ見詰めるだけ? それともいじってしまうの?
父  それは、いじってしまう
娘  そうすると、どうなるの?
父  それは、恐ろしい質問だ。
娘  答えて。動物を研究するなら、避けられない問題でしょう?
父  そうだな。こういう問題は、科学者よりも、詩人や芸術家の方が詳しい。詩を一つ読んでみるから聞いてなさい。

93 :名前なし:2009/08/30(日) 00:58:34 ID:J+tKqRn0
思考が無限を悪魔に変えた。
恵み深きを、むさぼる炎に変えた。そのさまに
人はおののき、夜の森に逃げてかくれた。
永遠の森はそのとき避けた。
そしてあまたの地の球となって、宙を巡った。
巡る宙は海となり、すべてを呑んだ。
跡に肉の壁が残った。
そこに悪魔の宮殿が建った。
有限の回転にぐるり縛られた有限の姿が立った。
そして人は天使になった。
天は巡る円となった。
神は冠をかぶり、冷徹な君主となった。


---ウィリアム・ブレイク「ヨーロッパ---予言」(一七九四)より

94 :名前なし:2009/08/30(日) 00:59:50 ID:J+tKqRn0
娘  随分怖そうな詩ね。意味はよく分からないけど。
父  この詩の言葉は、客観的な言葉じゃないね。人間が客観的になった結果を書いた詩だ。
   つまり、この詩で言われている"思考"が、人間全体・生きることの全体をどう変えてしまったかということが、この詩のテーマになっている。
   全体の一部だったはずの"思考"が、ひとり立ちして他の部分につかみかかる、とね。
娘  それで?
父  何でも細かくスライスしてしまう。
娘  どういう風に?
父  まず最初に、客観的なものとそうでないものとが、二つにスパッと分かれる。
   それとともに、人間の中に住む「知能と言葉と道具の生き物」の内側で、「目的」というものが湧いてくる。
   道具を持つというのは、もう目的を持つことと同じだし。そして目的が出来ると同時に、その目的を邪魔するものも出来る。
   客観的に生きるものにとって、世界は「助ける」ものと「邪魔になるもの」とに二分されるんだ。
娘  うん、それは分かるわ。
父  次に、この生き物が、自分の中に出来た分裂を、人間全体にとっての世界に押し当てるということが起きる。
   すると、ただ「助けになる」、「邪魔になる」というだけだったものが、「善」と「悪」という風に捉えられてくる。
   世界が「神」の側と「悪魔」の側とに二分されるわけだ。それからあとは、もう分裂の一方さ。
   知性の仕事は、物事をどんどん区分けして整理していくことだからね。
娘  説明原理を必要以上にどんどん作って?
父  そう。
娘  動物を観察する時も、同じように区分けしていくのね? そして、知性にのっとられた後の人間みたいにしてしまうの。
父  その通り。非人間的な人間のイメージで世界を汚染する、という奴さ。
娘  だから、客観的になると、小さな妖怪の研究ばかりやるわけね。もっと大きなことは考えないで。
父  そう。そういうのを、S-R心理学と言う。心の中を「刺激」と「反応」で調べていく奴。
   「愛」について客観的になるのは難しいけど、「性」についてなら、客観的になれるわけだよ。

95 :名前なし:2009/08/30(日) 19:44:17 ID:91pEifLE
娘  動物を研究するのに、大きな本能を作るのと、S-Rでいくのと、二つやり方があって、
   どっちもあんまり頼りにならないみたい。どうすればいいのかしら。
父  分からない。
娘  客観性と意識への王道は、言葉と道具だって言ったでしょう? あとの半分への王道は?
父  フロイトは夢だと言った。
娘  ふーん。
娘  夢って、何? どんな風に出来てるの?
父  夢か。夢は、我々を作る素材の切れ端だ。客観的な素材じゃないがね。
娘  ……でも、どんな風に作られてるの?
父  動物の行動を説明する話をしているんじゃなかったかな?
娘  その話の続きよ。だって、客観的に考えていったんじゃ、どうしたって動物を人間のイメージで汚染してしまうことになるんでしょう? 
   それも、人間の中の、一番と汚物と遠い所のイメージで。それが間違いなら、別な側を試してみればいいじゃない。
   だから「夢」なのよ。夢は残り半分への王道だって、パパ言ったじゃない。
父  パパが言ったんじゃない。フロイトが言ったんだ。少なくとも似たようなことをね。
娘  分かったわ。でも教えて。夢はどうつながっているの?
父  一つの夢と別の夢とが、どう結びついているのか、ということかね?
娘  そうじゃなくて。人間を作っているものの切れ端が夢なんでしょう? 
   だから、夢のつくりっていうのかな、夢の中のつながり方よ。
   それが分かればと思ったの。動物の行動も似たように出来ているかもしれないから。

96 :名前なし:2009/08/30(日) 19:45:53 ID:91pEifLE
父  そういうことを、どうやって考え始めたらいいんだろうな。
娘  夢の中に、「反対」ということはあるの? こうじゃないから、こうだとか……
父  夢は対立の原理で進んでいくか---昔の人は、そういう風に考えた。
   いや、夢で未来は占えない。夢には未来も過去も現在もないんだ。時の吹き溜まりで宙ぶらりんになっている。
娘  明日のことを心配していると、それが夢に出てくるって、ない?
父  それはあるさ。過去についての夢もあるし、過去と現在両方に関わる夢もある。
   しかし、夢の中には、それが何についての夢かという表示はないんだよ。夢はただ、そこにあるだけさ。
娘  タイトル・ページのない物語のようなもの?
父  うん。初めと終わりが切れていて、途中だけが見つかった古文書か手紙のようなものというかな。
   歴史家は出てきた部分だけを見て、何のことが書いてあるのか、いつの時代に誰が書いたのかを言い当てなくちゃならない。
娘  夢を調べていくにも、そうやって客観的に考えていかないといけないのかしら。
父  そうなんだな。しかし注意して客観的にならなくちゃいけない。言葉と道具で生きている生き物が考え出すことを、夢に押し付けないように。
娘  ……?
父  たとえば、夢に時制というものがなくて、時の中にただ浮かんでいるとしたらね、
   夢が何かを「予言する」というのは、誤った種類の客観性を押し付けることになるだろう? 
   何か過去について語っていると考えるのも、同じ種類の誤りだ。夢は歴史じゃないんだから。
娘  宣伝propagandaみたいなものかしら。
父  宣伝?
娘  つまりね、宣伝の中に出てくる話って、本当はたとえ話なのが、よく本当の話みたいに語られるでしょ?
父  そういう意味か。うん。夢はいろんなところで、神話や寓話に似ている。
   しかし、宣伝のように誰かが意識的に書いたものじゃない。夢に「ねらい」はないよ。
娘  夢にはいつも「寓意」moralがあるの?
父  いつもかどうかは知らんが、よくあるようだね。ただし、それが夢の中で明らかにされることはない。
   精神分析の医者は、夢の中にどんな寓意が込められているか患者に見つけさせるんだが……本当は、夢の全体が寓意なんだな。

97 :名前なし:2009/08/30(日) 19:47:11 ID:91pEifLE
娘  夢の全体が? どういうこと?
父  パパにも、よくは分からんのさ。

娘  それでどうなの? 夢に「反対」ってあるの? 夢の寓意は、見かけの意味の反対になることがある?
父  それは、よくあるようだね。「皮肉な夢」というやつ。一ひねりしてあるやつだ。
   一種の帰謬法というのかな、一つの例を出して、それがどんなに馬鹿げているか証明していく。
娘  どんな夢が、そう?
父  パパの友達に、戦闘機のパイロットをやっていた男がいてね。
   戦争が終わって、心理学を専攻したんだが、博士号を取る時に、口頭試験のことが心配で、
   ほとんどパニック寸前という感じだった。ところが前の晩に、戦闘機に乗っていて撃ち落される夢を見たんだな。
   そうしたら気持ちがすわって、翌朝彼は悠然と試験に出かけて行ったんだよ。
娘  どうして心配じゃなくなったの?
父  戦闘機のパイロットが、大学教授に囲まれたくらいで恐がるのは馬鹿げているからさ。
   落とされるといっても、本当に撃ち落されるわけじゃない。
娘  でも、どうしてそうだって分かったの? その夢は、試験に落とされるぞっていう意味にもなったはずでしょう?
父  そうだな。分かったわけじゃないんだ。夢に「これは皮肉だ」と表示されているわけじゃないんだから。
   普通の会話だってそうだろう? 「これは皮肉だ」と、口に出して言うわけじゃない。
娘  そうなのよね。皮肉のそういうところ、あたし、いつもひどいと思うの。

98 :名前なし:2009/08/30(日) 19:48:46 ID:91pEifLE
娘  動物の世界にも、皮肉ってあるのかしら?
父  それはないだろう。というか、「皮肉」と言うと違ってくる。「皮肉」というのは言葉に含まれるメッセージを分析する時の言葉だよ。
   動物は言葉でコミュニケーションをしているわけではないんだから、言葉に気をつけないといけない。誤った客観性を動物に押し付けないように。
娘  じゃあ、質問を変えるわ。動物の世界にも「反対」はある?
父  うん、あるんだね。動物も、実際、対立概念を扱うんだ。人間の場合とはちょっと違うんだが……
娘  どうやって? どういう時に?
父  そうだな。小さな犬が大きな犬に出会った時、わざと仰向けになって腹を見せるということがあるだろう? 
   「どうぞ攻撃してください」と言わんばかりに。それが逆の結果を生んで、攻撃がそこでストップするということが起こる。
娘  でも、そのこと、分かってやってるのかしら?
父  小さい方の犬が本心とは反対の表現をしているんだと、大きい方の犬は知っているか。
   そして、小さい方の犬自身も,自分の仕草の持つ効果を知っているか。そういう意味か?
娘  うん。
父  それは分からない。大きい方の犬に比べて、小さな犬の方が少しは知っていそうな気もするがね……
   とにかく、犬をいくら観察しても,それを知るのは無理だろう。相手は、知っているとか知らないとかのシグナルを送れないんだから。
娘  ねえ、パパ、そこの所は夢と似てない? 夢も「本当の意味は反対です」って言えないんだから。
父  うん、そうかな。
娘  少し分かってきたみたい。夢は反対のことを言うことがある。
   動物も反対のことを言うことが出来る。でも、どちらも「これは反対だ」と、はっきり言えない。
父  ふむ……
娘  動物はどうして戦いをするの?
父  理由はいろいろあるさ。縄張り争い、餌の取り合い、異性の取り合い。

99 :名前なし:2009/08/30(日) 19:51:09 ID:91pEifLE
娘  なにか本能の話みたい。そういう言い方はやめようってことじゃなかった?
父  だけど、ほかにどういう言い方が出来るね。「動物はどうして争いをするのか」という質問に。
娘  いいわ。じゃあ……戦いの中で、動物は「反対」を扱っているの?
父  その質問なら答えは「イエス」だ。争いの多くが「仲直り」で終わるだろう? それに「遊びのケンカ」というのもある。
   「ケンカじゃないもの」をすることで、友情が確認されたり発見されたりするわけだ。

娘  でも、どうして表示がないのかしら? ないのは、夢の場合も、動物の場合も、同じ理由なの?
父  さあ、どうだろう。しかし、夢がいつも対立を扱うわけではないよ。
娘  動物だって。
父  そうだね。
娘  ……パパのしてくれた話だけど、あの夢を見たことと、「戦闘機に乗っているあなた」は
   「口頭試験を受けているあなた」と同じではない、と誰かに言われたのとは、同じなのね。同じ効果があるのね。
父  ただし、夢は言葉のようにはっきり言い切ることはしない。
   「戦闘機に乗っているあなた」というだけで、「ではない」という所はぼやけたままだ。
   夢にはnotがないんだよ。この夢を何かに喩えなさいという指令もないし、喩えるものを指し示すこともない。
娘  動物の行動にnotはあるの?
父  notが? 動物の行動に? どうやって?
娘  つまりね、I will not bite you(噛まない)ということを、仕草で伝えることは出来るの?
父  まずね、仕草や身振りによるコミュニケーションには、時制がない。"will not"とは、言えないよ。
娘  じゃあ夢と同じね。夢にも時制がないんだから。
父  そういうことになるかな。
娘  でも、notのところはどう? I am not biting youとは言えるの?
父  それにもまだ時制があるが、まあいい。噛まないことを、どうやって仕草で伝えるか。それは、噛まないんだ。「噛まないこと」をするのさ。
娘  でも、他にだって、してはいけないことはたくさんあるでしょう? 
    寝ることも、食べることも、走ることもしてないかもしれないじゃない。
    「噛むことはしない」と言う時にはどうするの?
父  何かしらの方法で、「噛む」ということを話題に持ち出さなくてはならない。

100 :名前なし:2009/08/30(日) 20:22:25 ID:91pEifLE
娘  初めに牙をむく仕草をして、それで噛まないとか?
父  そういうことだね。
娘  でもそれだと二匹の動物が、お互いに「噛まない」って言い合うときは、両方が牙をむくことになるでしょう?
父  そうだな。
娘  だったら、誤解して、本当のケンカになってしまわない?
父  そういうこともあるだろうね。自分の動作に対立概念が現れているのに、
   当の自分が自分のやっていることを認識していないんだったら、そういう危険がいつもついてまわる。
娘  牙をむいた動物は、それが「噛まない」ということを相手に伝えるためだって、自分では分かるんじゃないかしら……
父  それは疑わしいな。ともかく、相手がどういうつもりでいるかということは、分かりようがない。
   夢だって、今見ている夢がどういう風に流れていくのか知ることは出来ないよ。
娘  一種の実験ね。とにかくやってみるの。
父  ああ。
娘  ケンカが必要かどうか知るために、ケンカをするの。
父  ただし、それを知ることが目的でケンカをするわけではない。ケンカの中に、というか、
   ケンカのあとに、自分たちのあるべき関係が現れる、というかな。そこに「ねらい」はないよ。
娘  じゃあ、動物たちが牙をむいている、その時にはまだnotは出て来ていないのね。
父  いないと思うね。少なくとも、そういう場合がほとんどだろう。親しい友達同士なら、
   最初から「これは遊びだ」って知って取っ組み合いを始めることもあるかもしれんがね。

101 :名前なし:2009/08/30(日) 20:23:50 ID:91pEifLE
娘  随分分かってきたみたい。動物の行動にnotはない。なぜならnotは、人間の言葉に含まれるものだから。
   そしてnotがないから、否定を伝え合うには、気謬法っていうの? ---否定されることを実演してみなくちゃならない。
   今の関係がケンカでないことを証明するのに、実際ケンカをしてみるとか、
   相手が自分を食べないことを証明するのに、食べられる体勢に入ってみるとか……
父  うん。
娘  そういうやり方って、動物が考え出したものなのかしら。
父  そうじゃない。そうにしかなりえないんだ。そうにしかなりえないことは、
   そうにしかなりえないと知っていようと知っていまいと、そうにしかなりえない。
   これを「必然の真実」という。三個の林檎に二個の林檎を加えれば五個の林檎になるというのは、
   数えることのできないものにとっても真実なんだ。こういうのも、ちゃんとした説明なんだよ。
娘  ふーん。

娘  でも、夢にはなぜnotがないの?
父  きっと、同じような理由なんだと思う。夢は大体がイメージと感覚で出来ている。
   イメージとか感覚とかでコミュニケートしようとしてごらん。やっぱりnotがないという問題に出くわすはずだ。
娘  でも「ストップ」のサインに斜めに線が引いてあるイメージは夢に出てこられるわ。それは「止まるな」の意味になると思うけど。
父  そうだな。しかし、そういうものはもう半分言葉になっている。それにその斜線は、notじゃなくてdon'tだよ。
   Don'tなら言葉なしに、身振りだけで表わすことが出来る。こちらがしてほしくない行動を相手がした、ちょうどその時ならね。
   それから言葉で夢を見るというのも、あることはあるんだ。そういう夢の中にはnotが入っていることもあるだろう。
   ただし、見ている夢自体にかかるnotというかな---つまり、夢の内容を否定するような、
   この夢を文字通り解釈するなというような---そういうnotを夢に見ることはできないと思う。
   眠りが非常に浅い時は、これは夢だと知って夢を見ることも、たまにあるがね。

102 :名前なし:2009/08/30(日) 20:36:22 ID:91pEifLE
娘  それで? 夢の中のつくりはどうなっているの? その質問に答えてないでしょう。
父  もう答えたような気もするがね。もう一度やってみよう。夢は隠喩である。
   または隠喩が絡み合ったものである。隠喩というのは、知っているね?
娘  「あなたは豚のようだ」が直喩で、「あなたは豚だ」が隠喩。
父  ほぼ正解だ。隠喩に「これは隠喩だ」という表示がつくと、それは直喩になる。
娘  夢にはそういう表示がないのね?
父  その通り。何に喩えているかは示さずに喩える。Aについて言えることを、Aの名前を出さずに、Bに当てはめる。
   「国が腐敗する」と言うだろ? その国に起こった変化を、バクテリアが引き起こす果物の変化に喩えているわけなんだが、
   隠喩ではバクテリアのことも果物のことも、表には出てこない。
娘  夢も同じ?
父  逆なんだ。夢は果物の方を見せておいて---バクテリアまで見せるかもしれないが---国は出さない。
   夢は関係を取り上げてそれを練っていく。その関係が何と何の関係なのかということは取り上げないんだ。
娘  パパがあたしに夢を作ってくれたら、いいのにな。
父  今言った作り方でか。それは無理だ。そうだ、さっき詩を読んだから、あれを夢にしてみよう。
   あの詩は、ほとんどあのままで、夢の材料に使えそうだ。言葉をイメージに替えていくだけでいい。
   詩の言葉は生きているから、それほど難しくもなさそうだ。
   問題は---隠喩がみんな何の喩えなのか、決まってしまっている所だな。夢の隠喩はそうじゃない。
娘  どういうこと?
父  最初に「思考」と言う言葉があるね。あれは隠喩じゃない。文字通りの言葉だ。
   その一語があるために、残りの部分で何のことが言われているのかがピタッと決まってしまっている。
   宙を舞っていたものが、ピンで止められたようになっている。
娘  夢は違うのね。
父  夢にするには、その最初の言葉も隠喩に変えないといけない。そうすると、詩の意味を捕まえるのが、ずっと大変になってくる。
娘  やってみて。

103 :名前なし:2009/08/30(日) 20:38:18 ID:91pEifLE
父  「バーバラが無限を変えた……」というのは、どうだ?
娘  バーバラ? 誰なの、その人。
父  barbarious(狂暴)な女の人。それに、三段論法には「格式憶え歌」というのがあるんだが、それにも最初にバーバラが出てくる。
   論理の暴力のシンボルとしてはぴったりだよ。ほら、見えてくるだろう? 
   バーバラが、両脚器かなにかで自分の脳をギーッと締め付けて、宇宙を変えていく……
娘  やめて!
父  分かった? こういうのが夢の隠喩さ。

娘  動物はどうなのかしら? 動物も隠喩をピンで止めるの?
父  その必要がないんだ。雄の鳥が雌の鳥に近付いていくのに、赤ん坊の鳥の仕草を真似たとしよう。
   子供と親の関係を隠喩に使っているわけだ。しかし、誰と誰の関係を親子関係になぞらえているか言う必要はない。
   自分と相手の鳥に決まってるんだから。伝えるテーマは、いつも自分たちの関係のことなのさ。
娘  他のものを、隠喩でなぞらえることはしないの? 絶対に?
父  少なくとも、哺乳類はそういうことはしないし、鳥類もしないと思う。
   ミツバチは、ひょっとすると、やっているかもしれない。人間はもちろんやるね。

104 :名前なし:2009/08/30(日) 20:39:51 ID:91pEifLE
娘  一つ分からないことがあるんだけど……
父  何だ。
娘  動物の行動が夢と随分似通ってるのは、分かったの。どちらも「反対」を使うし、
   時制がないし、notがないし、隠喩で伝えるものだし、その隠喩は宙を舞っている。
   分からないのは、動物がそういう風に生きていくというのは、ちゃんと理屈にかなっているでしょう? 
   「反対」を伝えるのも、隠喩が何をさしているか決めなくていいのも。
   でも、夢の方は、どうしてそうなっているの? 理由が分からないわ。
父  パパにだって、分からんさ。
娘  それとね? 遺伝子と染色体が、生長のメッセージを運ぶ話をしたでしょ。
   遺伝子や染色体も、動物や夢がするみたいにして、メッセージを伝えるの? 
   隠喩で、notは使わずに。それとも人間が話すみたいにして伝えるの?
父  さあ、どうだろう。それは分からんが、しかし、「本能」にあたるものが、
   そこでメッセージとして伝達されたりしてはいないということは、間違いないな。

105 :名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:23:44 ID:zAqYAS0N
みんな 選挙にいきなさいよ

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